ホンダCR-X シビック 2台の「Si」(2) 現代人へ理想的なデトックス 熱くなれる92ps!

公開 : 2024.11.17 17:46

望外な運転体験 自動車史のスイートスポット

車重は882kgと、クーペより50kg以上重いものの、走りは意欲的。0-100km/h加速を9.1秒でこなし、当時としては立派な動力性能といえた。CR-X Siより遮音性は僅かに高く、5速MTのギア比もロングで、比べれば車内は静かだ。

ダッシュボードのデザインは、明らかに異なる。基本的な特徴は似ているが、角ばった印象は抑えられ、恐らく製造コストも小さいはず。CR-Xではビニールで覆われる部分は、プラスティックが露出している。

ホンダ・シビック Si(1984〜1987年/北米仕様)
ホンダシビック Si(1984〜1987年/北米仕様)

人間工学の良さは共通。運転席へ座った瞬間から親しみが湧き、秘めた性能を引き出したい衝動へ駆られる。荷室には、荷物が滑るのを防ぐフックやネットなどは一切なし。スーパーからの帰り道で調子に乗り、食料品を暴れさせた人もいただろう。

最高出力は3桁に届かなくても、運転体験は望外に素晴らしい。過去最も楽しいクルマの1台だと表現していい。軽さという偉大なアドバンテージを、実感できる。当時のAUTOCARが、現代のロータス・エリートだと評価したことにも納得する。

装備は限定的で、信頼性が高く、燃費に優れ価格は現実的。エンジンは滑らかに回り、1.0L当たりの馬力も上昇しつつあった。1世紀以上に及ぶ自動車史の、スイートスポットにある。

その後、コンパクトカーも肥大化していった。車重へ対応するため、更なる馬力が求められた。1990年代のシビック・タイプRも面白いが、滑沢さという点では、ブレッドバンのシルエットで実用的な、3代目シビック Siには届いていないだろう。

現代人にとって理想的なデトックス・モデル

CR-X Siは軽さと短さが功を奏し、動的能力では一枚上手。より特別なホンダだと感じさせる。すっかり大きく重くなった現代のクルマは、一体感も薄まった。そんな体験からのデトックスを求める時、この小さなクーペほど理想的なホンダはないかもしれない。

ただし、この時代のボディは酸化しやすい。乾燥した南カリフォルニア以外の土地では、残存例が極めて少ないことが残念だ。

レッドのホンダ・シビック Siと、ブラックのホンダCR-X Si
レッドのホンダ・シビック Siと、ブラックのホンダCR-X Si

40年前のシビックとCR-Xで享受できる喜びは、現代のモデルでは得にくいものだ。より安全で快適になったとしても、もうこんなクルマは作れないという事実が惜しまれる。こんな気持になるのは、筆者だけではないと思う。

ホンダCR-X SiとシビックSi 2台のスペック

ホンダCR-X Si(1984〜1987年/北米仕様)

英国価格:7000ポンド(1985年時)/1万5000ポンド(約291万円/現在)以下
生産数:22万502台(CR-X合計)
全長:3675mm
全幅:1626mm
全高:1290mm
最高速度:180km/h
0-97km/h加速:8.2秒
燃費:12.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:830kg
パワートレイン:直列4気筒1488cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:92ps/5500rpm
最大トルク:12.8kg-m/4500rpm
ギアボックス:5速マニュアル(前輪駆動)

ホンダ・シビック Si(1984〜1987年/北米仕様)

英国価格:6595ポンド(1985年時)/1万2000ポンド(約233万円/現在)以下
生産数:107万5473台(北米仕様のみ)
全長:3810mm
全幅:1623mm
全高:1336mm
最高速度:175km/h
0-97km/h加速:9.1秒
燃費:12.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:882kg
パワートレイン:直列4気筒1488cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:92ps/5500rpm
最大トルク:12.8kg-m/4500rpm
ギアボックス:5速マニュアル(前輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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