【現役デザイナーの眼:日産ノート/オーラ】今後のトレンドは『小さな高級車』?

公開 : 2024.11.13 07:05

今回のマイナーチェンジで、顔まわりのデザインを大きく変えてきたノートとオーラ。日産は今、『デジタルVモーション』という新しい顔まわりのデザイン手法を取り入れています。これは『Vの字』をランダムに表現し、グリルやボディとの境界線を曖昧にするという、現代カーデザイントレンドのひとつとも言えるものです。「数多くの制約があるマイナーチェンジは難しく、意図したデザインにするには至難の業なんですよ」と話す渕野健太郎が、新しいノートとオーラを解説します。

現代フェイスデザインのトレンド

カーデザインは面白いもので、同時期に同じようなデザインのクルマが一斉に出たりします。

これは、もちろん誰も似せようと思ってる訳では無いのですが、何かきっかけになるコンセプトカーなどの印象が、全世界のデザイナーに焼き付くんでしょう。

ノートのフロントビュー。Vモーションとグリルが、グラデーションでボディに繋がっている様なイメージに見える。
ノートのフロントビュー。Vモーションとグリルが、グラデーションでボディに繋がっている様なイメージに見える。    日産

カーデザインのパターンは、実はそれほどありません。多くは今あるものの組み合わせでデザインされるんですね。そんな中フレッシュなデザインが出ると、日々新しいデザインを考えている私たちは「この手があったか!」と心に刻み込まれるのです。

さて、現代カーデザインのトレンドを牽引しているEVは、カーデザインに影響する特徴のひとつに『ラジエターのための開口部が無いこと』が挙げられます。いや、開口部は必要なのですが、エンジン車に比べてだいぶ小さくて済むのです。

その結果、グリルは要らなくなりました。グリルは車格感の象徴としてとても都合が良いものだったのですが、EVが急速に発展している現在、従来的なグリルに古い印象を持つ方が多くなりました。

しかしエンジン車は開口部が無いと成立しません。そんな中、生まれたデザインが『開口部のグラデーション』です。
これまでグリルとボディは明確に分けていたものですが、境界線を曖昧にすることでグリルの存在を和らげ、ボディ全体の塊感で見せようとする手法です。これが顔まわりのトレンドのひとつになっています。外国車ではプジョー、日本車ではレクサスが積極的に取り入れていますね。

表現はやや異なりますが『デジタルVモーション』も、それらの発展系だと感じます。

多くの制約がある、マイナーチェンジの難しさ

ノート、オーラのヘッドランプは共に、マイナーチェンジ前と同形状の様です。

マイナーチェンジ開発の際、社内では前モデルに対して『変化感』を求められるものですが、その為にはまずヘッドランプを変えることが一番簡単なんですね。しかし、ご想像の通りヘッドランプの変更は、ものすごくコストがかかるんですよ。

オーラのフロントビュー。ヘッドライト下の3本のパーツは、Vモーションの縦方向の残像のような効果を狙っていると思われるが、意図した見え方になっているか。
オーラのフロントビュー。ヘッドライト下の3本のパーツは、Vモーションの縦方向の残像のような効果を狙っていると思われるが、意図した見え方になっているか。    日産

バンパーとグリルのみの変更で、『デジタルVモーション』を表現しないといけないというのは中々難しそうです。でもノートは、元々ヘッドランプの形状がシンプルだったので、その点は違和感なくまとまっていますね。ヘッドライトと、その下2本のシルバーパーツでデジタルVモーションを表現しています。

近くで見るとややぶっきらぼうについているように見えるシルバーのパーツが、遠目で見るとグラデーションに見えます。ただお客さんがショールームで見る際は距離が取れないので、もしかしたら理解が難しいかもしれません。

それに対しオーラの方は、元々ヘッドランプにVモーションのシグネチャーランプがついているので、ヘッドライトの外形自体がかなり複雑な形状をしています。こちらのデザインはハードルがとても高かったのではないかと思います。

私が注目した点は、スポーティ志向から、高級志向へ表現が変わったという事です。

元々薄いヘッドランプを生かし、下のボディ色部分との対比でとてもスポーティに見せていました。そこが今回、ボディ色と黒色部のバランスが大きく変わったので、マイナーチェンジ前に比べて顔が高く、大きくなったと感じます。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、大手自動車メーカーにカーデザイナーとして入社。2023年『体力の限界」ということで惜しまれつつ? 引退。約20年間の現役時代は『自称』エース格としてさまざまな試合に投入され、結果を出してきた(と思う)。引退後はチームを離れフリーランスを選択。これまで育ててくれた自動車業界への恩返しとして、自動車の訴求活動を行っている。

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