集中力を削ぐモノなし 996型ポルシェ911 GT3(2) 本質的な「最適解」のスポーツカー

公開 : 2024.12.01 17:46  更新 : 2024.12.01 23:00

20世紀末に誕生した911の新ヒーロー、GT3 GT1用エンジンのヘッドを水冷化 アウトバーンで必要なウイング 聞き惚れるハードな響き 低い速度域で面白い 英編集部が記念すべき1台へ試乗

素朴さが新鮮な車内 集中力を削ぐモノなし

996型ポルシェ911 GT3の開発を、ローランド・クスマウル氏が振り返る。「軽いシングルマスのフライホイールの必要性も、上層部へ提言しています。アイドリング時に生じる、MTからの異音や振動で、故障したと勘違いされると反論されましたけどね」

「そこで通常のGT3には、一般的なデュアルマス・フライホイールを設定。クラブスポーツ仕様では、レーシングクラッチとともに、シングルマスを装備するという妥協をしています。販売では、クラブスポーツの支持率が高いことは明らかでした」

ポルシェ911 GT3(996型/1999〜2000年/欧州仕様)
ポルシェ911 GT3(996型/1999〜2000年/欧州仕様)

今日の996型GT3は、通常仕様でデュアルマス。クスマウルが説得を重ねて設定が決まった、ロールケージや6点式ハーネス、消化器なども備わらない。それでも現代の感覚では、車内空間がゴージャスだというわけではない。

ステアリングホイールの位置は完璧。足もとにはペダルが3枚。正面には5リングスのアナログメーター。右手には6速MT用のシフトレバーと、簡素なラジオ。これでも当時は、993よりだいぶ豪華なインテリアだとみなされた。

今ではむしろ、素朴さが新鮮。集中力を削ぐような、タッチモニターやラップタイマーなどはない。トラクションやスタビリティ・コントロールの調整ダイヤルも。運転をアシストする唯一の装備といえるのは、アンチロック・ブレーキだけだ。

多少の慣れが必要 低い速度域でも面白い

「何も助けるものはありません。あなたがドライバーです」。クスマウルが笑顔で話す。スタート地点は、オーストリア・ハーンテンヨッホ峠。眼下に、つづら折りの道が伸びている。リラックスしてスタートさせたいところだが、自制するのは難しい。

GT3は親しみやすく、数kmも走れば限界領域を理解できる。少なくとも、ヘアピンカーブへ突っ込めば、エンジンの搭載位置はすぐに理解できる。

ポルシェ911 GT3(996型/1999〜2000年/欧州仕様)
ポルシェ911 GT3(996型/1999〜2000年/欧州仕様)

ブレーキングポイントを遅らせて、ノーズをカーブの頂点へ押し込んでいくのでは、望ましいコーナリングはできない。アンダーステアになるだけだ。

早めのブレーキングでノーズを落ち着かせ、そっとパワーを掛けながら侵入。出口が見えたら、リアの荷重を活かし脱出加速へ繋げていく。最新の911に乗り慣れているドライバーは、多少の慣れが必要だろう。そのかわり、低い速度域でも面白い。

操る行為への集中力が低く、ラインを読まず、速度や回転数への注意がおろそかだと、996型の運転は労働に感じられてしまう。これらを意識し、我が物にすれば、体験へ没入できる。どんな価格帯のモデルにも、引けを取らない深さで。

現代のモデルと比較すれば、996は小柄。アルピーヌA110より全幅は狭い。ワインディングで駆り立てても、自分の車線内でコーナリングラインを調整していける。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ニール・ウィン

    Neil Winn

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

996型ポルシェ911 GT3の前後関係

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