集中力を削ぐモノなし 996型ポルシェ911 GT3(2) 本質的な「最適解」のスポーツカー

公開 : 2024.12.01 17:46  更新 : 2024.12.01 23:00

聞き惚れるエッジの効いたハードな響き

エンジンも素晴らしい。排気量はピッタリ3600cc。最高出力は360psに過ぎず、最初は控えめに感じてしまうことは事実だ。4000rpm以下では、ちょっとモッサリしている。だが、もっと高い回転域まで引っ張って欲しいと、促されるようでもある。

6速MTを数段落とし、回転数を使い切れば、魅惑的な加速感に浸れる。命を危険に晒すような、破滅的な速度域へ迫る必要はない。5000rpm辺りでサウンドに厚みが増し、7000rpmを超えるとエッジの効いたハードな響きへ転じる。聞き惚れてしまう。

ポルシェ911 GT3(996型/1999〜2000年/欧州仕様)
ポルシェ911 GT3(996型/1999〜2000年/欧州仕様)

クスマウルは、自身が所有する996型の911 GT3 RSで取材場所までやって来たが、やはり運転したくなるらしい。キーを借りると、30分ほど姿を消してしまった。

「自分のRSほど、フロントエンドのグリップ力はありませんね。セットアップはだいぶソフト。それでも、素晴らしい運転に興じれます」。駐車場へ戻ってくると、朗らかな表情で的確に印象を説明する。

本質的な最適解のスポーツカー ベンチマークの起点

ポルシェにとって激動の時期に誕生した、996型の911 GT3。究極の公道用GTマシンを目指し、クスマウルたちは全力を尽くした。だが経営陣は市場の反応を不安視し、予算は厳しく制限された。もっとコンセプトを突き詰めても良かったと、筆者は思う。

このGT3は量産車として初めて、ドイツのニュルブルクリンク・ノルドシュライフェを8分以下で周回。レーシングカー仕様は、1999年のル・マン24時間レースでクラス優勝を遂げている。

ポルシェ911 GT3(996型/1999〜2000年/欧州仕様)
ポルシェ911 GT3(996型/1999〜2000年/欧州仕様)

だがそれ以上に、本質的な最適解といえるスポーツカーが創出されたのだ。現代へ受け継がれる偉業を、ポルシェのモータースポーツ部門は成し遂げた。

通常の911 カレラより、車重が30kg多かったことは事実。歴代のGT3の中で、最もハードコアではないだろう。しかし、ドライバーの望み通りの速さを、公道で披露する。ロードカーとして高度に洗練され、長距離・長時間を我慢なしに楽しめる。

ポルシェは当初、996型の911 GT3を1350台販売する計画だった。しかし世界的な人気に押され、最終的に1858台が提供されている。後期型の996.2には、よりシリアスなGT3が生産数の限定なしで用意された。

北米市場へGT部門のポルシェが参入する、きっかけにもなった。現在では、世界最大の市場へ成長している。

996型の911が、過小評価されていることはご存知の通り。だが初のGT3は、水冷エンジンの時代にも、911が素晴らしいスポーツカーであり続けることを見事に体現した。ベンチマークの起点がここにある。

協力:ポルシェ・ミュージアム
撮影:ローマン・レツケ(Roman Ratzke)

記事に関わった人々

  • 執筆

    ニール・ウィン

    Neil Winn

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

996型ポルシェ911 GT3の前後関係

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