メルセデス・ベンツ EV用電池のリサイクルに注力、しかし原材料の採掘は止められない

公開 : 2024.11.14 06:05

メルセデス・ベンツはEV用バッテリーのリサイクルに力を入れているが、材料回収率を高めてもレアアース(希土類)採掘は必要だという。高効率なリサイクル工程と今後の見通しについて同社幹部に話を聞いた。

回収率96% ドイツに新リサイクル工場

メルセデス・ベンツのサプライチェーン責任者によると、バッテリーのリサイクル技術が発達しても、EV用のバッテリーを生産するためには常にレアアース(希土類)を採掘する必要があるという。

同社は最近、ドイツのクッペンハイムに新工場を開設した。この工場では、既存のEVバッテリーから原材料の96%を回収できるとされている。最終的に年間2500トンの製品グレードのコバルト、銅、マンガン、ニッケル、リチウムが生産される予定で、これは約5000台のEVのバッテリーに相当する量である。

新工場では年間5000台分のEV用バッテリーに相当する量の材料を回収できる。
新工場では年間5000台分のEV用バッテリーに相当する量の材料を回収できる。    メルセデス・ベンツ

しかし、メルセデス・ベンツの生産・品質・サプライチェーン管理担当取締役であるイェルク・ブルツァー氏はAUTOCARの取材で、バッテリーのリサイクルによって完全な自給自足に至ることはないと述べている。「(採掘で調達する材料の)20%、30%、40%は常に必要になると思う。2040年頃にリサイクルが本格化するとしても、鉱山から出る新しい材料の大部分はまだ必要だ」

製錬などメルセデス・ベンツの従来の方法における材料回収率は80%と言われているが、クッペンハイム工場ではこれをはるかに上回る96%という数字を叩き出した。これは、熱エネルギーではなく水溶液を使って原料を分離する湿式製錬(湿式冶金)方式を採用しているためだ。工程は約2日で完了し、エネルギー消費も比較的少なく、工場の屋根に設置された350kWのソーラーパネルから電力を供給している。

湿式製錬では、まずバッテリーの充電状態をチェックし、シュレッダーに投入する。生じた破片は機械式の「洗浄機」(実質的には巨大なふるい)にかけられ、磁石で分離された後、真空乾燥され、コーヒープレスのような働きをする「フィルタープレス」にかけられる。

こうして「ブラックマス」と呼ばれる化学物質の黒い塊ができ、これを液体溶液に溶かしてプレスし、黒鉛を取り除く。この溶液はアンモニアと過酸化水素で中和され、アルミニウムと鉄の最後の痕跡を取り除くために再びプレスされる。

最後に、硫酸、アンモニア、有機溶剤で処理され、銅、コバルト、マンガン、ニッケル、リチウムの硫酸塩が生成される。

銅、マンガン、リチウムは液体として巨大なドラム缶に貯蔵され、コバルトとニッケルは結晶化してから回収・再利用される。

フル稼働にはあと数年 他社製品にも対応か

年産2500トンを達成するまでには「3〜4年」かかるだろうとブルツァー氏は言う。これは、メルセデス・ベンツのEVが比較的新しいため、使用済みリチウムイオンバッテリーの在庫に限りがあるためだ。同社初の量産EVであるEQCは2018年に発売された。

ブルツァー氏は次のように述べている。

メルセデス・ベンツのクッペンハイム・バッテリー再生工場での鉄(Fe)と銅(Cu)の選別。
メルセデス・ベンツのクッペンハイム・バッテリー再生工場での鉄(Fe)と銅(Cu)の選別。    メルセデス・ベンツ

「リサイクルを始めるには、一定量のバッテリーが市場に出回らなければならない。そのため、まずバッテリーを生産する必要があり、これは鉱山から産出される原材料を使用することになる。リサイクルできるものがないからだ。当社のバッテリーの品質基準は8年から10年なので、多少の遅れが生じるだろう。今後3、4、5年は(低い生産量で)稼働するが、それと並行して非常に重要なのはプロセスを理解することであり、さらに重要なのは、スケーラビリティを理解することである」

その間、クッペンハイム工場はメルセデス・ベンツの研究開発活動や試作車から出たバッテリーをリサイクルする。ブルツァー氏によると、他社製バッテリーの受け入れにも前向きで、異なる化学組成のバッテリーについても検討する用意があるという。

「LFP(リン酸鉄リチウム)とNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)を一緒に扱うことも可能だ。問題は、それらをまとめてやるかどうかだ。効率を考えなければならない」

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    英国編集部ビジネス担当記者。英ウィンチェスター大学で歴史を学び、20世紀の欧州におけるモビリティを専門に研究していた。2022年にAUTOCARに参加。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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