【第2回】サイトウサトシのタイヤノハナシ:スタッドレスタイヤはなぜ効く?

公開 : 2024.11.20 17:05

タイヤが大好物のサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなくご披露するこのブログ。第2回は、この時期気になるスタッドレスタイヤの話。どうして氷雪路を自在に走れるのか、改めて考えてみましょう。

スタッドレス、出かける時は忘れずに、忘れた時は出かけずに!?

サイトウはとても焦っていた。雪の緩めの下り坂でブレーキを軽く踏んだ瞬間、タイヤがカツッとロックして、そのままツツーッと滑り出してしまったのでした。

あれは納車されたばかりのGC8型インプレッサWRX(そう、だいぶ昔の話です)。目的地は氷上ドライビングの聖地・冬の女神湖。スタッドレスタイヤの手配が間に合わなかったものの、行程に雪はないというので、まあ4WDだし大丈夫だろうと、サマータイヤのまま行ってしまった。それが間違いのもとでした。

往路は雪がなくても、帰路はわからない冬の寒冷地は、4WDでも油断禁物。そうした地域へお出かけの予定があれば、スタッドレスは早めに用意しておきたい。
往路は雪がなくても、帰路はわからない冬の寒冷地は、4WDでも油断禁物。そうした地域へお出かけの予定があれば、スタッドレスは早めに用意しておきたい。    斎藤聡

往路は情報どおり、路上に雪はなくゴキゲン! ところが翌朝、窓の外は真っ白。目の前は真っ暗。とはいえ、いつまでも立ちすくんではいられないと、意を決して帰路についたワケですが……。

軽くブレーキを掛けたらタイヤはあっさりとロック。GC8にABSはありません。止まるどころか、下り坂なので徐々に加速しはじめています。

取り返しのつかないスピードになる前に、ガードレールにボディをこすりつけて止めるしかないか? と思いながら先を見ると、除雪残りの小さな雪だまり。迷わずそこに乗り上げクルマを止めることに成功したのでした(ヨカッタヨカッタ)。

路面が凍結していなければ、新雪や踏み固められていない雪は圧雪路に比べグリップするもの。慎重に雪だまりから抜け出し、ガードレールすれすれにクルマを寄せて踏み残しの新雪に片輪を乗せ、息を殺しながらゆっくりゆっくり坂道を下って行ったのでした。約6キロを1時間かけて(ツカレタ〜)。

その間、スタッドレスタイヤを履いた営業車のカローラバンとか、近所のお母さんのコンパクトカーがスイスイ抜き去っていきます。その後ろ姿をうらやましく思いながら、スタッドレスタイヤの性能を痛感したのでした。

雪と氷で異なるグリップのメカニズム

では、スタッドレスタイヤはなぜ雪や氷での路面でグリップするのでしょうか。

この話をする前に、雪と氷におけるグリップのメカニズムの違いについて、簡単に解説しておきましょう。

アイスレース用のスパイクタイヤ。かつては日本でも、公道でのスパイクタイヤ使用が一般的だったが、粉塵公害への懸念から1990年末をもって国内生産が終了した。
アイスレース用のスパイクタイヤ。かつては日本でも、公道でのスパイクタイヤ使用が一般的だったが、粉塵公害への懸念から1990年末をもって国内生産が終了した。    斎藤聡

雪道のグリップ性能で主に効果を発揮するのは雪柱せん断力です。コレは雪を踏みしめたときに発生する摩擦力。雪上性能だけを考えると、接地面圧の高いほうが雪柱せん断力を引き出しやすいので、圧力が狭い面積に集中する細いタイヤのほうが有利と言われています。

対して氷面では、凝着(・粘着)摩擦が大きな影響力を発揮します。タイヤと路面の氷との間に起こる摩擦力(≒密着力)が求められるので、実接触面積の広さがグリップ性能につながります。氷上グリップ性能を重視するスタッドレスタイヤが、溝を細くしてでも接地面積を稼ぐのは、凝着摩擦を高めるためです。

考え方としてはこれが基本になるのですが、現在のスタッドレスタイヤは素材やトレッドのデザインなど、さまざまな技術が盛り込まれて、もっと複雑になっています。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    斎藤 聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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