崖っぷちの英国自動車業界に「希望」がある理由 日本も無関係ではなかった

公開 : 2024.11.15 18:05

暗い見通しは的外れ

このような危機的かつ不成功に終わった数年間で、英国の自動車製造業の長期的な存続に対する深刻な不信感が、一部で芽生えた。

ロールス・ロイスアストン マーティンベントレーマクラーレンレンジローバーといった英国の名だたる高級車ブランドに対する需要の影響は、実際のことろ、大衆車ブランドに比べてはるかに少なかった。

レンジローバーはJLRを支える屋台骨となっている。
レンジローバーはJLRを支える屋台骨となっている。

また、モーガンアリエルケータハムといった小規模メーカーの購入希望者の列にもまったく影響がなかった。

しかし、否定論者は、自動車需要の低迷と、特に半導体などの輸入部品の問題に関するメッセージを聞いて、国内の自動車製造業の将来について悲観的な絵を描いた。2002年にフォードフィエスタの生産を中止し、その10年後にトランジットの生産を中止したときとまったく同じだった。我々はいつも、自動車に関する悪いニュースが大好きなのだ。

今日、その見通しは完全に間違っている。英国は、日本メーカーを1社(スウィンドンのホンダはいずれ撤退するは予定だった)失っただけで、着実に再建を進めている。2022年の惨事以降、自動車生産台数と総販売台数はともに加速している。

自動車総登録台数は20%増の190万台で、多くの情報筋がこの10年間の期待値として挙げている210万台まであと一歩のところまで来ている。

270万台登録された時代は戻ってこないと専門家は言う。自動車(特にEV)は高価になり、使い方も異なっている。しかし、販売された自動車の価値に関しては、古き良き時代に戻っている。

個々のモデルの中には、傑出したものもいくつかある。日産キャシュカイは英国製であるだけでなく、設計・開発もほとんどが英国で行われており、3世代にわたって大ヒット作となっている。

最新の登録台数は、8月初旬までの1年間で11万2000台という驚異的な数字で、その75%が国外に輸出されている。同じくサンダーランドで生産されている、小型のジュークの成功も加味すれば、日産が英国の自動車産業にとって極めて重要な存在であることがわかるだろう。

もちろん、ミニも上位にランクインしている。オックスフォード工場では年間約20万台が生産され、その80%が輸出されている。

しかし、価値で言えば、レンジローバーが最高だ。JLR(ジャガーランドローバー)は8月までに、4万8000台のレンジローバーと同数のレンジローバー・スポーツを生産・販売し、その大半を輸出した。この2車種の平均販売価格が現在では10万ポンド(約2000万円)を超えていることを考えれば、同社にとっても国にとっても、いかに立派な稼ぎ頭であるかがすぐにわかる。

現在JLRは、レンジローバーモデルに続いて、ジャガーから革新的なEVシリーズを出そうとしている。実現すれば、そのポテンシャルは明らかだ。

SMMTのチーフ・エコノミストであるマット・クラウチャー氏によると、英国の自動車産業は現在、470億ポンド(約9兆3000億円)相当の自動車製品を輸出し、国の総輸出収入の11%から12%を生み出しているという。

製薬や防衛などの高収益産業を含めても、自動車および部品製造がこの国最大の輸出収入源となっているのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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