122年前のクルマでラリー! 1902年式アルビオンA1へ試乗 複雑で面倒だから「面白い」

公開 : 2024.11.19 19:05

ステアリングは車両中央 スロットルは手で操作

それでも、慣れるまでにはかなりの時間が必要。ステアリングホイールは直立し、運転席から見て左側へ大きくオフセットしている。スロットルは手で操作。2本ある長いレバーの内、左側はシフト用だ。

2速、ニュートラル、1速、リバースと切り替わる。もちろん、ギアの回転数を調整してくれるシンクロメッシュは備わらない。ギアはストレートカットでうるさい。変速時は、スロットルを閉じることになる。

アルビオンA1(1902年式/英国仕様)
アルビオンA1(1902年式/英国仕様)

右側のレバーは、リアホイールにブレーキシューを押し付ける、ブレーキ。足もとのペダルは、軽く踏むとクラッチが切れる。さらに踏み込むと、トランスミッション側にブレーキが掛かる。この切り替わるポイントは、理解が難しい。

下り坂でエンジンブレーキをかけようと思い、1速へのシフトダウンを試みる。ところが、気付くとニュートラルのままなことも。ステアリングは、28km/hに迫るとかなり神経質になる。ブレーキが強く効きすぎる恐れもあった。

クロプリーは、赤旗法が英国の自動車産業へ与えた影響は大きかったと話す。自由に走れたフランス車やドイツ車、アメリカ車は、性能を高めていった。今日のベテランカー・ランでも、英国車以外がA1を次々に追い越していく。

一方のA1は、馬車の雰囲気のまま。2速でスロットルを全開にして、29km/h。1速では、人間が歩くのより少し速いくらい。乗馬の駆け足と、常歩の速度に近い。

運転は複雑で面倒くさい でも手間が面白い

ロンドンのハイドパークを出発し、バッキンガム宮殿の前を通過。トラファルガー広場の公道に出る。ベテランカー・ランならではの楽しいルートだ。

南下するにつれて、ルートの起伏が多くなる。1速で坂を登っていると、エンジンが不安定になる。助手席のクロプリーは、勾配で苦しくなると飛び降りて歩いてくれる。

1902年式アルビオンA1と、英国編集部のスティーブ・クロプリー(左)とマット・プライヤー(右)
1902年式アルビオンA1と、英国編集部のスティーブ・クロプリー(左)とマット・プライヤー(右)

中には坂道で音を上げて、蒸気を吐き出す車両も。参加者から後ろを押してもらうクルマも多い。しかし、A1は小さなロバに引かれた程度の速度で、とぼとぼと登る。頼もしいクラシックカーだ。

A1を所蔵する英国自動車博物館は、合計6台をエントリーさせた。そのうち5台が完走を果たしたが、A1ほど車両管理者に自信を与えるクルマはないかもしれない。

タイヤはソリッドゴムで、ホイールは木製。それを考えると、乗り心地は驚くほど良い。ギアのノイズと重なるように、エンジンが小さく唸る。エグゾーストノートは可愛らしい。マフラーに穴の空いたゴム手袋をはめた時の音のように、ブーブーと鳴る。

2024年の水準では、悲惨な体験ではある。運転は複雑で非常に面倒くさい。それでも、不思議と楽しい。大自然でのキャンプや、手で書いて贈るハガキのように、その手間が面白いのだろう。

スタートしてから7時間後、午後2時40分に、ブライトンのゴールラインを通過することができた。その10分後、2人は再びA1へ飛び乗り、96km先のロンドンを目指したのだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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