「ホンダの時代が来た」 CEOが語るEVの未来 世界で存在感を示せるか
公開 : 2024.11.19 18:05
新しい生産方式に栃木で挑戦
基本的に、0シリーズはEV開発アプローチのリセットを意味するものかもしれないが、これまで培った自動車製造の知識をすべて捨て去るわけではない。
ホンダの電動事業開発本部長である井上勝史氏は、「我々がEVのトップランナーではないことは認識している。しかし、まったく別のものを作るのではなく、自動車における当社の基本的な強みをEV生産にも生かすことができると考えている」と語った。
新時代のEVに向けた土台作りの多くは、栃木県にあるホンダの四輪R&Dセンターで行われており、0シリーズに導入する新しい生産技術やアプローチを磨いている。
ここでのモットーは「薄く、軽く、賢く」である。具体的には、バッテリーを薄くすることで車高を低くしながらも広い室内空間を確保し、軽量化することで「スポーティ」なハンドリングと効率の向上を実現し、ソフトウェアベースのプラットフォームを採用することでコネクテッド技術と半自動運転を実現するというものだ。
ホンダの新しいアプローチを実際に目で見ることができるのが、現在広い作業スペースを占めている6000トンの巨大なメガキャストマシンである。
メガキャストは、1枚のアルミニウム材から大きな部品を一体成型する技術だ。
ホンダは当初、これをバッテリーパックに使用し、必要な部品点数を60点以上からわずか5点に減らすことで、車両重量を低減するとともに、生産にかかる時間と手間も節約する。さらに、大幅なコスト削減も可能になる。
メガキャストマシンは複雑で、ボバ・フェット(映画『スターウォーズ』シリーズに登場する賞金稼ぎ)が賞金首を捕まえて凍結させるために使うような分厚い金型プレス機と、ぐるぐる回転するロボットアームが一体化している。そのため、改良にはかなりの労力を要した。
栃木の開発ユニットが稼動したことで、0シリーズモデルの生産が行われる米オハイオ州の工場に6台のメガキャストを設置する作業がまもなく始まる。
「お家芸」のエンジンも諦めない
メガキャストを開発しているのはホンダだけではない。すでにテスラでも採用されており、トヨタとボルボも間もなく量産車に導入する予定だ。そのためか、記者が栃木を見学した際にホンダは、摩擦攪拌接合やCDC接合など他の技術にも力を入れていた。これらは剛性と効率性を高めるためのもので、マージナル・ゲインのマントラに当てはまる姿勢だ。
栃木で行われているのは、新しい生産方式の開発だけではない。ホンダは、内燃機関モデルと0シリーズを同じ工場で生産できるようにするため、新しい「フレックスセル」という方式で生産ラインを見直すことも検討している。
フレックスセルは、基本的に自動車の生産工程を1つの長いラインではなく、いくつかのセルに分割することで、需要が変動した場合に異なる車種間で生産能力を柔軟にシフトできるようにするものだ。
そのためには、部品や組み立てられた自動車を工場内でどのように運ぶか、高度なAIの知恵も必要となる。
0シリーズの一番槍となるのが、2026年に登場するサルーン(1月に開催されるCESでさらなる情報公開が期待できる)の量産モデルで、エントリーグレードの航続距離は480km以上で、「スポーティ」なハンドリングの実現を目指している。
ハードウェアと同様に重要なのが、新しいソフトウェア・プラットフォームだ。多くの自動車会社がそうであるように、ホンダも新機能や特性をアップデートできるソフトウェア定義型自動車に焦点を当てている。
ホンダの発想は大胆だ。例えば、ユーザーがVRヘッドセットを装着し、友人と一緒にバーチャル同乗走行できるようなシステムを構想している。
もちろん、自身のルーツを忘れたわけではない。さまざまな事業を抱えるホンダは、世界最大の内燃機関メーカーなのだ。
三部氏は、現在のハイブリッド車ラインナップが「好調」だとして、「2030年まで、これが当社の主要事業になると考えている」と述べた。
新開発のeアクスルは、一部の0シリーズとハイブリッド車で共有される。ホンダはすでに、プレリュードをハイブリッド専用クーペとして欧州で復活させることを決定している。