期待以上にモダンな体験:ACエース 戦前最高の技術を流用:ブリストル405 直6の英国車たち(2)

公開 : 2024.12.07 17:46

ブリティッシュ・スポーツと切っても切れない、直列6気筒エンジン 新技術が盛り込まれたアストン マーティンDB5とジャガーXK150 既存技術も巧みに活用 英編集部が傑作6台を乗り比べ

いかにも設計の古そうなエースの直列6気筒

今回の6台の中で、ひときわレーシーなボディをまとうACエース。ボンネットを開くと、いかにも設計の古そうな直列6気筒が顕になる。ヘッドの表面は滑らか。レシプロ飛行機のようなエグゾーストパイプが、高い位置から伸びる。

このAC社製の2.0L 6気筒エンジンは、ネイピア40hpや50hp用のユニットが由来。1919年のロンドン・モーターショーで、その原型が公開されている。

レッドのACエースと、ダーク・ブルーのブリストル405 ドロップヘッド・クーペ
レッドのACエースと、ダーク・ブルーのブリストル405 ドロップヘッド・クーペ

アルミニウム製ブロックに、チェーン駆動のオーバーヘッドカム、クロスフローヘッド、トリプルキャブレターという、当時としては凝った技術を採用。航空機用ユニットをベースに、ジョン・ウェラー氏が先進的な設計を施している。

ストロークが100mm、ボアが56mmとロングストローク型で、レブリミットは3000rpm。当初の最高出力は40psだったが、1947年のAC 2リッター・サルーンの動力源になる頃には、77psへ上昇していた。

その後、技術者のジョン・トジェイロ氏の協力を得て、同社はスチール製チューブラーフレームのスポーツレーサーを開発。フェラーリバルケッタへ似たボディが与えられ、リーフスプリングを横向きに組んだ、独立懸架式サスペンションが支えた。

ACカーズは、この技術を展開。新しい量産モデルとして、1953年に発表されたのがエースだ。最高出力は86psで、レブリミットは4500rpmへ上昇していた。

車重は810kgと軽く、コンディションが良ければ最高速度は160km/hに到達。独立懸架式のサスペンションが、優れた操縦性を担保した。

運転体験は期待以上にモダン 不思議な印象

当時ACカーズのディーラーを営んでいたケン・ラッド氏は、販売拡大を狙いレッドに塗ったエースをモータースポーツに投入。ラッド・レーシングのマシンとして活躍し、ラッドスピードの名声を築くことにも繋がった。

今回ご登場願った1台も、ラッドによるエース・レーサー。内装が省かれ、流線型のフロントグリルと、低いアクリル製スクリーンを得ているが、量産仕様から殆ど手は加えられていない。エンジンも、驚くほどノーマルへ近い。

ACエース(1953〜1963年/英国仕様)
ACエース(1953〜1963年/英国仕様)

ピストンが鋭く上下動する様が、足もとの熱気と、荒々しい排気音で感じ取れる。トランスミッションは、モス社製。ジャガーXK150より扱いやすいとはいえ、丁寧で的確なレバー操作が求められる。

エースは、直線加速が鋭いわけではない。だが着座位置は低く、薄いボディから肘がはみ出るから、スピード感は実際以上。アクセルペダルへ力を込めると、回転数を問わず、爆発的な勢いでトルクが増していく。クレッシェンドする音響とともに。

タイヤは細く、グリップ力は限定的。ステアリングホイールは軽く回せ、クラッチペダルも重くない。カーブでは、挙動を予想しやすく面白い。

運転体験は期待以上にモダン。ただし、動力源は明らかにクラシック。少し不思議な組み合わせに思える。これがエース特有の魅力を醸し出す。ドラマチックなスタイリングと同じくらい、走りに惹き込まれる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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