アウディA6アバント・クワトロ3.0 TFSI 第2回

公開 : 2015.01.29 16:45  更新 : 2017.05.22 13:55

1月13日・夕方〜

長野県は女神湖で行われた“ランボルギーニ・ウィンター・アカデミア”(別項参照)そのものの取材は14日だったが、前日となる13日夜に女神湖すぐそばのホテル、コロシアム・イン蓼科に入る。東京から蓼科までのルートは、まず中央自動車道で諏訪南ICまで200km強を一気に走り、そこからさらにワインディングを含めて30km走らなければならない。この時期の蓼科の最低気温は-20℃(!)になることもめずらしくないそうだから、道路はカッチカチに凍っていることは確実。最新スタッドレスを履いたアウディ・クワトロほど、こんな強行軍にうってつけのクルマはない。しかも中央道は夜の雨。すかさずアダプティブクルーズコントロールをオンにして、“Bang & Olufsen”のサウンドシステムで極楽ドライブ。ミシュランのスタッドレスも優秀なんだろうが、A6の室内は想像以上に静か。しかもこんな悪条件でも前走車を見失うことはなく、車間距離や速度調整もドンピシャ。本当に極楽である。

1月14日

昨日の夜、早朝の女神湖までの移動、そして夕方に取材終了してから諏訪南ICまでの帰路は、ヘビーウェット、ワダチが掘られた雪道、カッチカチの氷結路……とまさにバッドコンディションのオンパレードだったが、まあ、お世辞でもなんでもなく、不安のカケラも感じなかった。たしかに中央道の高速コーナーや氷結路で、瞬間的にグリップを失いかける兆候は何度かあったものの、トラクションをかけているかぎり、A6クワトロはねらった方向に安定してグイグイひっはる。アウディの縦置きクワトロは、最近流行の電子制御多板クラッチによるオンデマンド型ではなく、センターデフを介して常に4輪をガッチリ駆動する本物のフルタイム4WD(最新A6クワトロの場合は前40:後60という駆動配分が基本)。今回のような過酷な雪道や凍結路などの超低ミュー路では、いったん姿勢が大きく乱れたり、完全に滑ってしまったら、どんなに優秀なタイヤや4WDシステム、シャシーをもってしても、それを引き戻すことはできないのだ。つまり、低ミュー路でのキモは「そもそも姿勢を大きく乱さない、完全なスリップはさせない」であって、そのためには常にこのアウディ縦置きクワトロのような真正フルタイム4WDこそ最強なのだ。……とそんなことをあらためて思い知らされた。

1月15日

昨日の蓼科からの帰路に、実はアクシデントに見舞われてしまった。すでに日が暮れた中央道。しばらく大型トラックの後方について走った後、グイッと加速しながら追い越し車線に出た……と思ったら、目の前には太さ10cm以上はありそうな(おそらく)角材が数本、車線をふさぐように5〜6本散乱していたのだ! ブレーキを踏んでなんとか避けようと思うものの、横にはすでに追い越しかけている大型トラックがいる! それでもギリギリまで寄せたつもりだが、「ああ、もう踏むしかない……」と覚悟を決めた瞬間、ドーン!という衝撃。案の定、右前輪で1本踏んでしまったようである。いろんなことが頭をよぎりつつも、深呼吸して落ち着くと、ステアリングの手応えや乗り心地、直進性から推測するに、パンクなどはしていないようである。下りる予定のICも近く、そこまで安全に停められそうなPAや非常駐車帯もないため、ゆっくり走るながらまずは高速を下りて、タイヤをチェック。すると、サイドウォールがまるでタンコブのように丸く膨れ上がっていた。この仕事をはじめて20年になるが、こんな現象を自分の眼で見るのは初めて。これは「ピンチカット」というらしい。タイヤが強い衝撃を受けて、内部のカーカスコードが切れてしまったことが原因という。こうなってしまうと、この部分は内圧を薄いゴムだけでギリギリで支えている状態。いつバーストしてもおかしくない……ということで、すぐに入場→タイヤ交換となってしまった。

ただ、ご想像のとおり、1月中旬という時期になると、もはや、望みの銘柄、望みのサイズのスタッドレスタイヤを調達するのは簡単ではない。というわけで、ウィンターテストを目的としたA6アバント・クワトロ3.0TFSIの長期レポートはここで終了。新たにA3にバトンタッチすることになってしまった。うーん、腹立たしいやら、哀しいやら、自分の運のなさに情けないやら……となんとも複雑な気分だが、A6アバント・クワトロが期待どおりの素晴らしいほぼ無敵なウィンターエクスプレスだったのは確かだ。

text & photo:佐野弘宗 / モーター・ジャーナリスト

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