新生ジャガーの「大問題」は名称にあり? SNSで “炎上” した理由 英国記者の視点

公開 : 2024.11.27 06:25

ジャガーが大胆なブランド再構築を発表し、ソーシャルメディア上で賛否両論(概ね否定的)の反応を引き起こしている。新しいジャガーのどこに問題があるのか。AUTOCAR英国記者が切り込む。

イーロン・マスクも疑問 ジャガーのブランド再構築

新しいジャガーが、新しいロゴとブランドの発表とともに本格的に始動した。それに伴い公開されたローンチビデオは、まるでリアリティ番組『アプレンティス』の課題で制作されたような内容で、伝えようとしていることが製品とはかけ離れており、そもそも何を宣伝しているのかと疑問に思うほどだ。クルマ、かもしれない。

イーロン・マスク氏が我々一般大衆を代弁するようなことは滅多にないが、Xに投稿されたジャガーの動画に対する彼の「Do you sell cars?(クルマ売ってるの?)」という問いかけは、多くの人が考えていたことを要約したものだ(マスク氏がそれを強調したのには彼なりの理由があったのかもしれないが)。

ジャガーは11月18日に大胆なリブランディングを発表したが、SNSでは賛否両論(概ね否定的な反応)を引き起こした。
ジャガーは11月18日に大胆なリブランディングを発表したが、SNSでは賛否両論(概ね否定的な反応)を引き起こした。

しかし、動画に対する他のコメントに目を向けると、まったく異なるポジショニングでブランドを再起動させるという問題が露わになる。

同社のSNSチームがマスク氏に「お茶でもどう?」と気の利いた返信をしたり、あるいは、クルマはどこにあるのかと問う人々に対して「舞台を整えているところだ」、「もうすぐ我々の考えがわかる」、「これは意思表示だと考えてほしい」などと応じたりしているが、それほどコメント欄を読み進めなくても、マスク氏が投げかけた疑問の答えは明らかだ。

ジャガーは現在もクルマを販売しており、まだ購入して間もないオーナーもいらっしゃる。同社は新しいポジションを模索する上で、現状から目を背けたいのかもしれないが、ジャガーは一般大衆の認識の中では依然として非常に異なる意味を持ち、存在している。

そして、JLR(ジャガー・ランドローバー)は品質問題と長引く部品供給問題に悩まされており、近年はあまり調子がいいとは言い難い。

ジャガーの動画に対するコメントの1つに、「2年前に購入したFタイプが、3回目の保証修理から戻ってきたところだが、ドアに大きな傷があり、サイドスカートにも損傷があった。また購入を検討する前に、品質とディーラー/サービス・ネットワークの改善が必要だ」というものがあった。

ジャガーからの回答はこんな感じ。「こんにちは。お役に立てるようでしたらお知らせください。車両識別番号、メールアドレス、電話番号、お近くのディーラーを記載の上、プライベートメッセージをお送りいただければ、対応させていただきます。よろしくお願いいたします」

別のコメント。「部品はどうなっているのか。わたしのクルマはJLRディーラーに3か月間預けているが、まだ部品が届く兆候すら見られない。5年前に買ったジャガーを4か月間も運転できないでいる。修理は1日で済むはずだったのに」

「部品の納期遅延でご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。車両識別番号、連絡先、部品情報、および販売店の名前を記載したプライベートメッセージをお送りください。よろしくお願いいたします。 トム – ジャガー」……担当のトム氏にとっては辛い1日だったろう。

コメントはまだ続く。「ディーラーのサービスに失望させられている。 リバプール・ジャガーは電話に出ないし、折り返しもかけてこない……! 全然ダメ。こんなサービスじゃ、またジャガーを買おうという気にはなれない!」

トム氏は再びこう言う。「ご不便をおかけして申し訳ございません。 詳しい情報、車両識別番号、およびご連絡先を記載したプライベートメッセージをお送りください。よろしくお願いいたします。 トム – ジャガー」

こうしたやり取りが本当に延々と続く。トム氏の返信は、やがてトレイシー、マット、エリー、マリアなど他のスタッフに引き継がれる。スペイン語で書かれた苦情には、見事にスペイン語で返信されている。

これほど多くの人々が自分のクルマに問題を抱えているというのは、読んでいてかなり辛い気分になる。苦情が多ければ多いほど、スタッフの苦労も増えていく。心配になるほどだ。

しかし、返信するのはカスタマーサービス関連のコメントであり、ジャガーに対する批判ではない。現在の外向きの姿には明らかに問題がある。そして、このような問題こそが、同社を低迷から抜け出し、まったく違う何かへと変わりたいというメンタルにさせるのだ。

これはブランド再構築の第一段階に過ぎないということを認識しておいた方がいい。一週間後には、ジャガーは高級EVブランドとしての将来性を示す新しいコンセプトカーをお披露目する予定であり、それによって将来像がより明確になるはずだ。少なくとも、マスク氏のような質問はなくなるはずだ。

しかし、会社を再始動させたからといって、SNSへの投稿で浮き彫りになった問題が消えるわけではない。そして、潜在的な新規顧客、つまり同社が言うところの「活気あふれる人生を送りたい(create exuberant)」、「生き生きと暮らしたい(live vivid)」、「平凡な日常を消し去りたい(delete ordinary)」と考えている人々は、コメント欄をあまり読み進めないうちに、新しいジャガーが自分に向いているかどうか疑問に思うだろう。

まったく同じ名称を使った大胆なリニューアルには、このような問題がある。時が経てば傷は癒えるだろうが、それまでに多くのことが置き去りにされるため、同時にジャガーの名称も完全に新しくした方が良かったのではないか。

他のすべてがこれほどまでに異なるのであれば、なぜ最も重要なものを変えないのか? 残していくものが明らかに大きな問題を抱え、本来あるべき姿からかけ離れているというのに。コンセプトカーが発表され、今後1年間にわたってブランド再構築が進めば、さらに多くのことが分かるだろうが、新生ジャガーが乗り越えなければならない最大のハードルは、「ジャガー」という名称そのものである可能性が高い。

記事に関わった人々

  • マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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