軽くて安くて楽しい スズキ・スイフトは現代社会の「デトックス」だ 英国記者の視点

公開 : 2024.11.28 18:25

低価格のクルマはビジネス的に厳しい状況にあるが、それでもなお真剣に取り組んでいる自動車メーカーがあることは喜ばしい。スズキ・スイフトのような「良いクルマ」は現代の自動車業界に欠かせない1台である。

安いクルマが頑張ってくれている

ここ数年、筆者はクリスマスシーズンに発行されるAUTOCAR誌の特別号で、その年の試乗記をまとめる特集を組んできた。

2023年の星評価の平均が4つ星から3.5つ星に下がり、5つ星(最高評価)がゼロになったことは非常に印象的だった。2023年は、素晴らしい年ではなかったということだ。

車重1トンを切るスイフトは、某メーカーの高級EVよりも運転が楽しかった。
車重1トンを切るスイフトは、某メーカーの高級EVよりも運転が楽しかった。

2024年に入り、すぐに良いクルマ(ダチア・ダスター、ヒョンデアイオニック5 N、モーガン・プラスフォー、スコダ全般)が出てきたとき、筆者は潮目が変わったのか、それとも筆者が甘くなったのか、疑問に思い始めた。

それもあって、編集者であり欧州カー・オブ・ザ・イヤーの審査員でもあるマーク・ティショー氏とともに、デンマークの「タニステスト(Tannistest)」に参加できたのはとても嬉しいことだった。これは、欧州カー・オブ・ザ・イヤー委員会が主催するイベントで、その年に重要なモデルをできるだけ多く集め、連続してテストを行うというものだ。

平凡なクルマに対する筆者のアンテナはちゃんと働いていた。2日間のデンマーク滞在中に、あまり印象に残らないクロスオーバー車をたくさん運転したため、それらがすべて同じクルマのように思えてきた。

レンタカーとして乗るには申し分ないクルマばかりだが、他のハッチバック車やプラットフォームを共有する兄弟車と比べて、際立った特徴はない。そこで1つの疑問が生じる。このクルマ、本当に必要なの?

実は、必要なのである。なぜなら、本当に素晴らしいものをより一層輝かせるからだ。そして、今まさに市場に出回っているいくつかのクルマが、本当に優秀で素晴らしいものであることは疑いようがない。星が輝くには、灰色の背景が必要なのだ。

ルノー5(Eテック)は素晴らしい。鮮やかなボディカラーが揃っているからだけではない。ティショー記者のレビューを繰り返すつもりはないが、筆者が特に気に入っているのは、ミニ・クーパーEよりも安いのに、その安さを感じさせない点だ。

多くのメーカーが単なるインテリアデザインの口実としてスクリーンを使っているのに対し、5はレトロとモダンを美しく融合させながらも、ユーザーが望むであろうテクノロジーをすべて搭載している。ある意味、ダチア・ダスターも同様のことを、さらに低価格帯で実現している。

午前中にEVやハイブリッド車を運転した後、スズキスイフトに初めて乗り込んだ(これまで乗り損ねていた)筆者は、完璧なデトックスを体験した。

タニステストではマニュアル・トランスミッション搭載車は3台しかなく、それ自体が少し憂鬱だが、筆者はそんなことは忘れて、この幸せな3気筒エンジンをレッドゾーンまで回し、コーナーが近づいてくるとヒール・アンド・トゥでギアを戻した。

ショールームを飾るような洗練されたクルマではないが、ロータスエメヤよりもこの945kgのハッチバックを走らせる方が楽しかった。1トンを切る車両重量のスイフトはとても速くて安定感があり、中国製の高級EVセダンよりもロータスの理念に近いと言えるだろう。

さらに心強いのは、一部の高級車メーカーに停滞感がある一方で、手頃な価格帯からこの火が燃え広がっているように見えることだ。

低価格帯のクルマに関しては、ビジネス面では依然として厳しい状況が続いているが、それでも一部のメーカーが真剣に取り組んでいることは喜ばしい限りである。そして、必要な “背景” を提供してくれる他のすべてのクルマにも感謝したい。

記事に関わった人々

  • イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    英国編集部ライター
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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