デザインの良し悪しって誰が決めるの? 客観的に判断できるか 英国記者の視点

公開 : 2024.12.02 18:05

クルマのデザインを見て自分が「好きかどうか」はすぐに分かるが、デザインが客観的に「正しいかどうか」を判断できる人はほとんどいない。自動車専門誌の記者・編集者にとっても永遠のテーマだ。

「ひどいデザイン」の見分け方はいくつかあるけど……

クプラボーンVZのアクスル・オーバーハング(車輪の中心から車体の最前部・最後部までの長さ)は779mmで、前も後ろもぴったり同じだ。

筆者が13年にわたってAUTOCAR誌のテスターおよび記者を務めてきた中で、収集した車両データは数多くあるが、これほどまでにぴったりと一致するテスト対象は他にない。

自動車デザインの客観的な判断基準はごく限られているのではないか。(写真:クプラ・ボーンVZ)
自動車デザインの客観的な判断基準はごく限られているのではないか。(写真:クプラ・ボーンVZ)

実車をぼんやりと眺めているときはそれほど認識していなかったが、数字に気づいた瞬間、何となくすべて分かっていたような不思議な感覚に襲われた。

ボーンには、前後オーバーハングが一致しているべきクルマのように見える視覚的な特徴が広く備わっている。そして、それがまさに、ボーンのデザインが優れている要因なのではないかと、筆者はふと思う。

本題に入ろう。クルマの良いデザインとは何だろうか? そして、我々のような観衆にそれを判断できる能力はどの程度あるのだろうか? もし、我々が愛好家として「デザイン・リテラシー」を身につければ、もっと見栄えの良いクルマを手に入れられるのだろうか?

それとも、この議論を「これは良く見えるが、あれは良く見えない」とか「わたしはこれが好きだが、理由はよくわからない」といった、主観的で無益な会話にシフトダウンしてしまってもいいのだろうか? 我々は皆、もっと有意義なレベルで、そして理想を言えば同じルールを使って、自動車デザインを評価するよう努めるべきではないだろうか?

筆者は今、21歳の頃よりもずっと自信を持って、ほぼあらゆる点においてクルマの評価ができるようになった。だが、デザインはそうではない。クルマに乗り込んで、クルマを運転して、あるいはクルマの近くに立ってじっくりと長時間眺めても、筆者がこれまでに積み上げてきたことのほとんどは、それを変えることはなかった。

今も昔も、自分が気に入るもの、気に入らないものを見分けることはできる。また、何が適切なように見えて、何が適切なように見えないかも明確に理解している。筆者を惹きつけるクルマの特徴と、そうでない特徴を説明することもできる(そして通常、AUTOCARではあまり魅力的でないモデルについて書く方が楽しい)。

しかし、クルマがうまく設計されているかどうかを判断するのに使えるツールは、筆者がティーンエイジャーだった頃とほとんど変わっていない。筆者の職業人生において、プレゼンテーションのスキルを除いて、これほど自分の未熟さを感じる分野はほとんどない。

もちろん、いくつかの見分け方は学んできた。クルマの姿勢(スタンス)を注意深く観察し、道路にどのように座っているか、そして車輪とホイールアーチとの隙間の埋め方を見る。Aピラーのラインを延長し、それが前輪の中心部と交差しているかどうかを確認する。

そうやって「黄金比」のヒントをそのプロポーションに見出そうとしている。ただし、このやり方は「ひどいデザイン」のクルマを解剖するには役立つかもしれないが、「素晴らしいデザイン」と「良いデザイン」を区別するには限界がある。

考えれば考えるほど、そもそも「クルマを良く見せるのはデザイナーの仕事だ」と思い込むことは間違いである、という確信が深まっていく。それは単純化しすぎだ。確かにデザイナーの仕事の一部ではあるが、「良い」の定義がどうあがいてもコントロールできないのであれば、実際に手の届く範囲のことを目指せばいいではないか。

筆者が思いつく限り、ここ数年で特に良かった印象的なデザインのいくつかでは、形状やフォルムが、そのクルマの位置づけや使命の根本的なものを表現するために使われている。

そこには彫刻的な何かがある。マクラーレン・セナの圧倒的なまでの荒々しさ、フェラーリF12ベルリネッタの包み込むような力強さ、ポルシェタイカンのSF的な未来感、そしてもちろん、クプラ・ボーンの左右対称のオーバーハング。

なぜこのクルマが、このような要素を備えているのか、そしてそれがもたらす対称性は何を意味するのか。クルマは人を一瞬立ち止まらせ、考えさせる。それは、異なる次元ではあるが、芸術がすることである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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