ブガッティとベントレーの愛のない結婚? HEツーリッター・スポーツ(1) 100年前に5年保証!

公開 : 2024.12.21 17:45

驚くほどハンサムなツーリッター

これらの動力系の設計を率いたのは、航空機用エンジンの検査官だったローランド・サリー氏。ドライバーとしても有能で、その頃のブルックランズ・サーキットでは、時速83.85マイル(134.9km/h)という、クラス最高速記録を11.9phで残している。

彼はブガッティのオーナーで、トランスミッションの設計はこれから影響を受けたようだ。当時では珍しく、水平に2本並んだシャフトへギアを配置する構造が取られている。ドライバー右側のシフトレバーと、Hパターンのオープンゲートを備える。

HEツーリッター・スポーツ(1922〜1925年/英国仕様)
HEツーリッター・スポーツ(1922〜1925年/英国仕様)

リアアクスルへ駆動力を伝えたのは、トルクチューブで覆われたプロペラシャフト。ウォームギアのファイナルギアを介し、104km/hの最高速度を叶えた。

今日、Jスミス&Coモーター・エージェンツ社の敷地で見るツーリッターは、驚くほどハンサム。ラジエターグリルは卵型。エンジンはシャシーの低い位置に載るが、ボンネットは高い。アルミ製ボディは細身で、無駄なラインがなく、優雅なカーブを描く。

詩的なレーシングドライバーで、HEのオーナーだったWH.チャーノック氏は、「とりとめのない、ブガッティとベントレーによる愛のない結婚のようなもの」。と過去に評している。

魅了された初代オーナー 輸入車に匹敵した価格

今回のツーリッターは、ラインオフ以来、1度もレストアを受けていない。エンジンやトランスミッションだけでなく、スポーツツーリング 3シーター仕様のボディまで、100年前に作られたまま。内装は流石に傷んでしまい、数年前に新調されているが。

エンジンルーム後方のスカットル部分には、ヒンジで開くパネルが付く。ダッシュボードの裏から、メーターや電気系統へ簡単にアクセスできる。ツールキットの収納場所にちょうどいいが、5年保証を前提にした、整備性を高めるための配慮だろう。

HEツーリッター・スポーツ(1922〜1925年/英国仕様)
HEツーリッター・スポーツ(1922〜1925年/英国仕様)

シャシーは、スチール製のチャンネル材とパイプで補強した、プレス構造。サスペンションは、後ろが4分の3楕円のリーフスプリング、前は通常の半楕円リーフが支える。

初代オーナーのベイリーによって、このツーリッターは改良を受けている。その1つが、アンドレ・ハートフォード社製のダンパー。オリジナルは、HEの自社製だった。

彼は、このツーリッターへ深く魅了されていたのだろう。新車時の英国価格は595ポンドと、同等クラスの一般的なモデルよりかなり高価だった。関税のかかった、ルノーフィアット、スチュードベーカーなどの輸入車に匹敵したほど。

ベイリーは24年間所有し、2代目のオーナーへ引き継がれるが、どちらも大切に乗っていたことは間違いない。現オーナーのニール・ゴフ氏が2019年に購入した時の走行距離は、6万9200kmだったという。運転を好む彼により、今は10万600kmへ伸びている。

この続きは、HEツーリッター・スポーツ(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

HEツーリッター・スポーツの前後関係

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