基本メンテナンスで100年間! HEツーリッター・スポーツ(2) 1924年を感じさせない製造品質

公開 : 2024.12.21 17:46

100年前、他に例がない5年保証を付けて売られたHEツーリッター 驚くほどハンサムなボディ 輸入車に匹敵した価格 年式を感じさせない製造品質と滑らかさ 英編集部が貴重な1台をご紹介

基本的なメンテナンスで100年間維持

1923年頃から、HE社は経営が悪化。トラックやバスを製造していたソーニークロフト社によって、工場の一部が買収される。

一時的にクルマの生産はストップするが、新たな資金を得て1925年に再開。しかし、6気筒エンジンの新モデルを開発していた1929年に、事業の清算へ追い込まれた。

HEツーリッター・スポーツ(1922〜1925年/英国仕様)
HEツーリッター・スポーツ(1922〜1925年/英国仕様)

アメリカの株価暴落、ウォール街大暴落の影響は大きく、ソーニークロフト社が別の工場も取得。HE社は1931年に廃業し、創業者のマートンは1950年にこの世を去った。

短命に終わったブランドだったが、HEツーリッターは生き証人として21世紀の道を走っている。現存する4気筒エンジンのHEは、7台だけだと考えられている。

基本的なメンテナンスだけで、100年も状態を保ててきたという事実は、歴代オーナーがクルマを良く理解していたことの証だろう。可能な限り優れた操縦性を得ようという、過去の努力も見られる。

新車で購入したケネス・ベイリー氏は、ダンパーだけでなく、四輪ブレーキへのアップグレードも要求している。当時は安定性を乱すと考えられていた技術だったが、ブレーキペダルを踏むと、前後のドラムが制動力を生むシステムを備える。

しかし現代のものと異なり、ドラムの直径はリアの方が大きい。フロント側のドラム内では、ロッドとギアを介してシューが動く。開発初期の技術といえるだろう。

1924年とほぼ変わらぬ姿 アクセルは中央

2代目のオーナーは、ジョン・ミルナー氏。1947年に購入し、1959年から1960年にかけて、エンジンのオーバーホールが実施されている。メインベアリングとクランクジャーナルの補修や、フライホイールの軽量化などが実施されたようだ。

ボディは25年前にブラックで再塗装されたが、それ以外、ミルナーは1924年当時の見た目を保った。その後、ツーリッターを購入したのがニール・ゴフ氏。驚くことに、彼が歴代で3オーナー目らしい。

HEツーリッター・スポーツ(1922〜1925年/英国仕様)
HEツーリッター・スポーツ(1922〜1925年/英国仕様)

スポーツツーリング 3シーターというボディスタイルの通り、定員は2+1の3名。フォルムはリアへ向けて細く絞られ、フロントシートの後方に、荷室にも使える空間が用意されている。

ハンドブレーキ・レバーがボディ側面にあるため、乗り降りしやすいのは助手席側。フロアの位置はかなり高く、中央がアクセルのペダルは目視できない。

ステアリングホイールは、大径で4スポーク。その中央に、点火タイミングとスロットルの凝った調整機構が組まれている。

木製のダッシュボードには、時速80マイル(約128km/h)までの速度と、3000rpmまでの回転、油圧、水温、充電量のメーター。時計もある。2枚貼られたプレートの1枚は、3030という製造番号。もう一方は、新車で販売したディーラーの銘版だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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