【小粒でピリリと辛い人参?】ロームに聞いた、半導体がEV進化のためにしてくれること

公開 : 2024.12.01 08:05

今夏、ジーリーの電気自動車ブランドであるジーカーが、X、009、001の3車種にロームの半導体『SiC MOSFET』を採用するというプレスリリースが発表された。そもそも『SiC』とはどんなものなのか。「EVの仕組みは一通り理解していても、半導体レベルとなってしまうと正確に分かっているのかいささか心許ない」という方に向けて、なるべく平易にお伝えすべく、ロームの京都本社で、改めてお話をうかがった。

2012年にはすでに車載向け使用を開始

ジーカーと言えば、ボルボロータスを有し、今や世界トップ10規模となったブランドであるジーリーが、現在力を入れている電気自動車専用のブランドだ。ここにきて日本への展開についても漏れ聞こえてきているジーカーの3車種に、日本最大手半導体メーカーであるロームの半導体が採用された。

ロームとジーリーの両社は2018年からすでに技術交流を開始しており、2021年にはSiC(シリコン・カーバイド)パワーデバイスを中心に戦略的パートナーシップを締結している。

ジーリーの電気自動車ブランドであるジーカー3車種に、ロームの第4世代SiC MOSFETベアチップが採用される。
ジーリーの電気自動車ブランドであるジーカー3車種に、ロームの第4世代SiC MOSFETベアチップが採用される。    ローム

ちなみにロームは、2010年に世界で初めてSiC SBD(ショットキー・バリア・ダイオード)とSiC MOSFET(メタル・オキサイド・セミコンダクター・フィールド・エフェクト・トランジスタ) の量産に成功し、2012年には車載向けの使用を始めたトップランナー。現在の『SiC MOSFET』は第4世代となる。

EVの駆動部は、誕生から数十年の間にさまざまな進化を遂げてきた。xEVと呼ばれる次世代電動車では、『3in1』と呼ばれる駆動用モーター、減速機、そしてモーターに回るタイミングを指示するトラクションインバータが一体になっているものが一般的だ。ジーカーにおいては、このトラクションインバータに、ロームの第4世代SiC MOSFETベアチップが使用されている。

MOSFETとは、電界効果トランジスタ (FET) の一種で、トラクションインバータ内部においてスイッチのような役割を果たすもの。つまり『SiCでできた、とても小さい電流制御装置』がSiC MOSFETだ。

硬くて扱いにくいけれど高性能、それがSiC

そもそもSiCとは素材の名前で、正しくはシリコン・カーバイドという。Si(ケイ素)とC(炭素)で構成される化合物半導体だ。これまで使用されてきたSi(シリコン)に比べると、SiCは絶縁破壊電界強度が10倍、バンドギャップが3倍という性質を持つ。熱に強くて、高温動作、低損失などが求められるEVのトラクションインバータには最適な素材だ。

一方、とても硬い素材となるので、磨いたり切ったり、加工するのが難しい。硬さの指標となる新モース硬度でいうと、ダイヤモンドが15のところ、13という数値だ。加工が難しければ、その分コストもかかる。

これまで使われてきたSi(シリコン/青)と比較すると、その性能は一目瞭然。今後、パワーデバイス分野でキーとなる素材だ。
これまで使われてきたSi(シリコン/青)と比較すると、その性能は一目瞭然。今後、パワーデバイス分野でキーとなる素材だ。    ローム

それでもSiCのMOSFETを採用したトラクションインバータを搭載すれば、高効率化により電費にして3~7%の改善が見込めるという。しかも、高温耐性を生かして、インバータの冷却器の重量、サイズを小さくすることも可能。つまり、システムコストで考えると、費用削減につながる。

さらに、リチウムイオン電池の容量を小型化すれば、車重は軽くなるし、デザインの自由度も広がって、より空気抵抗を考慮したデザインにすることもできる。そうすればさらに電費はよくなる、という相乗効果が見込めるというわけだ。

『小さくて軽くて性能のいい駆動部を作る』ということが、ロームの半導体がEVの進化において大いに役立つ部分だと言えるだろう 。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 編集

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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