【世界のEVに追いつき追い越せ】ホンダ「全固体電池」の実現に一歩 栃木で挑戦始まる

公開 : 2024.12.06 06:05

ホンダは2025年1月より栃木県さくら市にある全固体電池のパイロットラインを稼働開始する。5年以内の量産化に向けた重要なステップであり、実現すればEV開発における新たな扉を開くことになる。

大規模なパイロットライン、稼働目前

栃木県さくら市で、EVの未来を変える可能性を秘めた技術が、実現に向けて大きな一歩を踏み出そうとしている。ホンダの全固体電池のパイロットラインが、2025年1月に稼働開始する予定だ。

このパイロットラインでは、電極材の秤量(はかる)・混練(まぜる)、塗工(ぬる)、ロールプレス(かためる)、そしてバッテリーモジュールの組み立てまで、一通りの生産工程を再現できる。大きな特徴として、本格的な量産ラインと同規模の設備を整えており、いざ量産に入るときにもスムーズに移行できるという。

栃木県さくら市に建設されたホンダの全固体電池パイロットライン
栃木県さくら市に建設されたホンダの全固体電池パイロットライン    本田技術研究所

延床面積は約2万7400平方メートルで、量産に必要な技術やコストを検証し、量産プロセスの確立を目指す。つまり、EV用の全固体電池の作り方を決め、どのくらいの費用で作ることができるのかを見極める。量産化の重要な前段階だ。

ホンダは全固体電池を「重要な欠かせない要素」と位置づけ、さくら市のパイロットラインには約430億円(NEDOの助成金約200億円含む)を投じている。

本田技術研究所の大津啓司社長は、「バッテリーの進化こそがホンダの変革のドライバーになる」と力を込める。全固体電池を「EV時代におけるゲームチェンジャー」と呼び、パイロットラインの稼働は「日本およびホンダにとって重要なマイルストーン」とした。

なぜホンダは、全固体電池の量産化を急いでいるのだろうか?

全固体電池で運転が楽しくなる?

全固体電池は、従来のリチウムイオンバッテリーの液体部分である電解液を固体に置き換えたものだ。液体よりも多くのエネルギー(電気)を蓄えることができ、安全性も向上すると言われている。

ホンダは全固体電池をEVに搭載することで、航続距離を2倍に伸ばし、電池サイズの50%低減、重量35%低減、コスト25%低減を実現できると主張する。つまり、ユーザー視点としては単に長時間走れるだけでなく、広い室内空間、軽量化によるハンドリングの向上、低価格化など、さまざまな恩恵を受けられるということだ。

全固体電池の搭載で航続距離2倍、コスト25%低減などさまざまな利点が強調される。(プレゼン資料のスクリーンショット)
全固体電池の搭載で航続距離2倍、コスト25%低減などさまざまな利点が強調される。(プレゼン資料のスクリーンショット)    本田技術研究所

まさに夢のような「次世代」電池だが、自動車に載せるための大型化と、大量生産の技術的ハードルは高い。実は、全固体電池そのものは心臓ペースメーカーですでに実績があり(リチウムヨウ素電池)、安全性と信頼性は高いものの、パワーが弱く車載レベルでの利用は難しいとされてきた。

従来の液体型リチウムイオンバッテリーは性能が高く、大量生産と技術開発によって近年コストダウンも進んでいる。しかし、出火・爆発の危険性や温度管理の難しさ、寿命の短さ、充電時間など解決すべき課題も多い。その点、全固体電池は安定して動く温度範囲が広く、充放電を繰り返しても劣化しにくいといったメリットがある。

ホンダはまた、電極材(正極と負極に使用する材料)の選択自由度が高いことから、2030年代後半以降はレアメタルのコバルトやニッケルの使用量を最小化し、いわゆる「資源リスク」を回避してコスト低減を目指すという。そうなれば、全固体電池の普及にさらに拍車がかかるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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