ポルシェが目指す「本物」の電動スポーツカー 新型 “718 EV” で見るべきところ

公開 : 2024.12.03 18:05

2025年にデビューする見込みのポルシェ「718ボクスター」と「718ケイマン」の新世代EVモデル。走行性能の鍵を握るのはブレーキフィールとバッテリー配置だ。

バッテリー配置とブレーキに「妙」あり

ポルシェの技術責任者によると、718ボクスターおよび718ケイマンの新世代EVはモータースポーツで磨かれたブレーキとハンドリングを備え、「本物のスポーツカーの感覚」を確実に実現するという。

この新型EVは、ポルシェのツッフェンハウゼン工場で既存の内燃エンジン搭載モデルと並行して生産され、2025年に発売される予定である。最近、ポルシェが電動化計画を先延ばしにしたことから発売延期となる可能性もあったが、ここ数か月の間でプロトタイプが複数回目撃されており、来年デビューに向けて計画通りに進んでいるものと思われる。

ポルシェ・ミッションRコンセプト
ポルシェ・ミッションRコンセプト

ポルシェは欧州で、オープントップのボクスターと、クーペのケイマンのEVプロトタイプがテスト走行を繰り返している。いずれも新開発の電動スポーツカー専用プラットフォームをベースとするが、プロトタイプを見る限り、サイズ、スタイリング、コンセプトの面で既存モデルに近いということがわかる。

プラットフォームは、2021年公開のコンセプトカー「ミッションR」で初めて示唆されたもので、バッテリーを「コア」として設計する点が特徴だ。一般的なEVのように床下にバッテリーを配置するのではなく、既存の718モデルのエンジンと同様に、ドライバーの後ろに搭載する予定だ。

この設計では、パッケージングの利点を最大限に活かすためにバッテリーサイズを最小限に抑える必要があり、その結果、効率性とエネルギー回生に重点が置かれることになる。

あくまでもドライバー視点で開発

ポルシェの研究開発部門のトップであるミヒャエル・シュタイナー氏はAUTOCARの取材に応じ、フォーミュラEから得た教訓が、今後発売される718ボクスターとケイマンのEVにどのような影響を与えるかを説明した。

シュタイナー氏は「モータースポーツは常にブランドの中核にある」と強調し、フォーミュラEでの成功の鍵は「効率性」にあるとした。

ポルシェ718ボクスター
ポルシェ718ボクスター

フォーミュラEでは各チームに独自のパワートレインを開発する自由があるが、バッテリーの規格は定められているため、そのエネルギーを最大限に活用することが重視される。

「公道向けのeモビリティにおいても効率性が重要となる。エネルギーを節約すれば、重量、航続距離、材料コストのいずれにおいても優位に立つことができる。効率化によって、さまざまなことが可能になる」

効率性はモーターの設計だけでなく、ソフトウェアやブレーキも大きく関係しているという。後者の場合、焦点となるのは回生システムと従来の摩擦ブレーキの統合だ。

回生システムを積極的に取り入れる一部のライバル企業とは異なり、ポルシェの既存EVモデルであるタイカンやマカン・エレクトリックは、限定的な回生システムしか導入していない。シュタイナー氏は、「当社の戦略はワンペダルドライブではない」と話す。

「どのレーシングドライバーに聞いても、ワンペダルシステムを選ぶ人はいないだろう。回生とブレーキを同じペダルで、できるだけシームレスに制御しなければならない。コーナリングの際、ペダルに適切な感触がなければ、車両の安定性を信じることができなくなる。クルマを見てもわからないかもしれないが、ドライバーに聞けば、ブレーキペダルの違いを感じられるだろう」

シュタイナー氏は、ブレーキの感触こそがポルシェのトレードマークであるハンドリングに不可欠な要素であり、「クルマを優れたものにする」ものだと語った。

「直線での加速は、ある程度は誰でもできる。しかし、ブレーキペダルの感触、ブレーキの効き、コーナーでのハンドリングの良さといったものは、フォーミュラEで学んだことだ。効率性を含め、公道ではまだ改善の余地があると考えている」

ポルシェが統合ブレーキに重点を置くのは「物理」の観点からであるという。クルマの運動エネルギーを利用して減速させ、ブレーキディスクの使用をできるだけ避けた方が効率的だからだ。

「ワンペダルシステムでは、必要以上に早く回生が始まることがある。ブレーキディスクが効き始める前にすでに減速しているため、ドライバーとしてはまったく影響を与えることができない」

それに対して、「ブレーキペダルでブレーキ操作をすべて行う場合、ドライバーは必要に応じて調節を行うことができる。また、ターマックやステアリングなどの反応も感じることができる」と同氏は力を込める。「つまり、ブレーキとスロットルの両方でクルマを制御できる。我々の考えでは、これは制御できない働きをするシステムよりも優れている」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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