アウトバーンで300km/h超へ マセラティMC20 長期テスト(3) 感動的に快適な乗り心地

公開 : 2024.12.22 09:45

現代のマセラティを象徴するスーパーカー、MC20 フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンの競合との位置関係は? 数字競争から一歩引いた姿勢が生む個性とは 英編集部が魅力を深掘り

積算1万6346km ドイツ・フランクフルトへ

美しい音楽へ心を強く震わせる人は、山間部にこだまする、コスワース・エンジンの響きにも魅了されるのだろうか。世界的指揮者で、楽壇の帝王とも称されたヘルベルト・フォン・カラヤン氏は、ポルシェ911と911ターボ RSを所有していたという。

運転時の深い共感は、エンジンやサウンドだけが導くものではない。包まれ感のあるボディに身体を支えるシート、フロントガラスからの眺め、シャシーの動き、ステアリングホイールの感触や反応、ドアミラーに映るフォルムなど、すべてが相乗している。

マセラティMC20(英国仕様)
マセラティMC20(英国仕様)

それらが、作曲家、エンニオ・モリコーネ氏のサウンドトラックのように、ありふれた景色を印象的な情景に変える。想像力が駆り立てられ、いつもの高速道路が素晴らしいドライブルートに変わる。

なんて、ちょっとキザに始めたが、筆者はアウディ e-トロンの発表イベントへ参加するため、先日ドイツ・フランクフルトを目指した。長期テストのマセラティMC20で。

賢明なビジネスマンなら、グレートブリテン島からは飛行機で移動するはず。しかし、せっかくこのクルマに乗っているのだから、長距離ドライブを体験したいと考えて当然。荷室は意外に広く、サスペンションは柔らかめで、車内は居心地が良い。

優秀なグランドツアラーといえるだろうか。ドアポケットに入れた小物は、ドアを開く度に道路へ散らばるが、ワクワクしながらV6エンジンを始動させた。

濡れたル・マン24時間レースのシーンが重なる

いつも通りユーロトンネルをくぐり、欧州大陸へ上陸。子どもたちは、恥じることなくイエローのボディへ見惚れる。大人からも、多くの視線が向けられる。流石に、この美しさを無視することはできないのだろう。誰でも、多少なりとも興味は抱くはず。

フランスからベルギーへ。天気は生憎の雨。ブリヂストン・ポテンザは、ウェット時の操縦性に若干の不満があるものの、ストレートでの不安はない。ハイドロプレーニング現象を心配したが、まったく問題なかった。

マセラティMC20(英国仕様)
マセラティMC20(英国仕様)

そもそも、MC20は落ち着いている。傷んだアスファルトや、ワダチの凹凸へ気を使う必要性も低い。

降りは激しさを増す一方で、スピードを必要以上に高めることは危険だった。それでも、順調に距離を消化できた。夜間の雨は歓迎できないが、シフトアップする度に、最高だなとしみじみしてしまった。

フロントタイヤからは、フェンダーアーチを超えて、噴水のような水しぶきがあがる。激しい水滴の渦が、モニター式のバックミラーを埋める。筋肉質なリアのフェンダーラインが、ドアミラーに映る。

レーシングカーさながらの、センターワイパーは激しく左右へ踊る。ガラスで覆われたキャビンは、薄暗く静か。トレーラーの赤いテールライトが、次々に後ろへ流れていく。

実際の環境はまったく異なるが、ル・マン24時間レースで、濡れたミュルザンヌ・ストレートを疾走しているような、そんなシーンが重なる。特別なMC20だからだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

長期テスト マセラティMC20の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

コメント

おすすめ記事

 
×