マセラティ・グランカブリオが好きすぎて……冬【新米編集長コラム#11】

公開 : 2024.12.06 17:05

8月1日よりAUTOCAR JAPAN編集長に就任したヒライによる、新米編集長コラムです。編集部のこと、その時思ったことなどを、わりとストレートに語ります。第11回は今週展開した『110周年記念!マセラティ小特集』の締めくくりとして、グランカブリオについて語ります。

マセラティは貴族のクルマである

『マセラティ・グランカブリオ』という車名は、先代から与えられたものだ。マセラティがフェラーリ傘下だった2000年代前半、4.2LのV8NAを搭載した際に『クーペ』と『スパイダー』の車名が採用され、フルモデルチェンジした際に『グラントゥーリズモ』と『グランカブリオ』に改められた。現行モデルはその後継車たちとなる。

個人的に、これに3200GTを加えたマセラティの2ドアクーペ&オープンモデルは、どれも素晴らしいクルマだと思っている(誤解のないように書いておくと、新車をリアルタイムで取材したのが3200GT以降なので、それ以前は別軸の話ということで)。デザインに関しては3200GT、クーペ、スパイダーがジウジアーロ=イタルデザインで、先代グラントゥーリズモ、グランカブリオがピニンファリーナとなり、同じマセラティでもだいぶ雰囲気は違う。ピニンファリーナは当時、ジェイソン・カストリオータという勢いある若手デザイナーが担当していて、これは素晴らしい……と発表当時感動したのを覚えている。

2024年2月29日にデビューした2代目となるマセラティ・グランカブリオ。
2024年2月29日にデビューした2代目となるマセラティ・グランカブリオ。    神村聖

雰囲気が違うといえば、それ以前はデ・トマソ傘下で生まれたガンディーニ・デザインだし、歴史的に紆余曲折を重ねてきたマセラティは、その時代ごとに変化を続けてきた。しかしそこに1本の筋を見出すなら、『マセラティは貴族のクルマである』という点に尽きると思う。

正確には『イタリアの貴族のように悠然とした振る舞いのオーナーが似合う』と書くほうが伝わるかもしれない。フェラーリやランボルギーニほどクルマが主張しないアンダーステイトメントで大人の雰囲気に、ずっと憧れてきた。『いつかマセラティの似合う大人になりたい』とフィアットランチアを乗り継ぎながら公言してきたのである。そういった背景の中で、2代目グランカブリオの試乗会に参加することができた。

実車と対面して思わずため息

2代目グランカブリオは2024年2月29日に発表された。今回の試乗会でも説明があったが、1950年代のA6G2000スパイダー、1960年代の3500GTやミストラルのスパイダー、1970年代のギブリ・スパイダー、1980~90年代のビトゥルボ・スパイダー、そして2000年代以降、前述のスパイダーおよびグランカブリオ。そういったオープン・マセラティたちは常にラグジュアリーであり、モータースポーツと直結したエンジンを搭載してきた。おお……この流れにあるのかと改めて、歴代モデルたちが持つ悠然とした雰囲気にすっかり参ってしまう。ミストラルもギブリもビトゥルボも全部憧れのクルマだ。

2代目の特徴は、ネットゥーノと呼ばれる3LのV6ツインターボ(542ps)を搭載すること、前後トルク配分が変化するAWDであること、エアサスが標準となること、電動ソフトトップは開閉時間がわずか14秒で、50km/h以下なら走行時も開閉可能なこと、フロントシートに3段階で調整可能なネックウォーマーが標準装備されることなどだ。また折りたたみ式ウインドストッパーが標準装備となり、これは日本側担当者のキモ入りらしく、関係者を説得して標準にこぎ着けたそうだ。

薄いグレーのボディにホワイト系インテリアとブルーマリンのソフトトップという組み合わせが素敵すぎ。
薄いグレーのボディにホワイト系インテリアとブルーマリンのソフトトップという組み合わせが素敵すぎ。    神村聖

おお……。実車と対面して、思わずため息が出た。グリージョ・インコグニトと呼ばれる薄いグレーのボディに、アイスと呼ばれるホワイト系インテリアとブルーマリンのソフトトップという組み合わせが、あまりに素敵すぎるじゃないか。ちなみにインコグニトとは、隠密、身分を隠したなどを意味するイタリア語で、アンダーステイトメントなマセラティらしいネーミングと言えよう。

さて、以前試乗したグラントゥーリズモでクルマ自体のよさは既に確認しており、今回はその感触の違いを確かめる時間となる。ちなみに天気は曇りで、撮影許可の出ている峠は濃霧模様だったが、ダメ元でKカメラマンと峠へと向かった。

動き始めて気が付いたのは、思いのほかステアリングが軽いことと、乗り心地がとてもいいこと。恐らくエアサスが路面からの入力を細かく制御しているのだろう。またファブリック製のソフトトップではあるが静粛性と遮音性は非常に高く、クーペとさほど変わらない気がした。

街中では非常にジェントルな動きに徹していて、室内のデザインや設えのよさもあり、いかにも高級感のある雰囲気をうまく作り出している。ネットゥーノエンジンが炸裂しない静かな環境で走っていると、これならフォルゴレ、つまり静かなBEVもありだろうなぁと思えてくる。

撮影中は、曇りや霧が逆にカラーリングとマッチして、正直に書けばこのクルマ欲しい度がどんどん高まった。資料で見たオプションも含めた総額3294万円という価格はいったん忘れるしかないが、グリージョ・インコグニトを纏ったグランカブリオへの想いがだんだん溢れてくる。唯一惜しいのは、リアのラゲッジスペースがソフトトップに追いやられて結構狭いことで、別の意味で乗る人を選ぶのかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。

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