【第3回】森口将之の『もびり亭』にようこそ:モビリティデザインにカッコよさは必要か?

公開 : 2024.12.11 17:05  更新 : 2024.12.11 17:11

多様性を増すモビリティデザイン

毎年秋から年末にかけては、さまざまな賞の発表が行われます。日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨のしくみであり、60年以上にわたり『Gマーク』とともに広く親しまれてきた『グッドデザイン賞』もそのひとつです。

僕は2013年からこの賞の審査委員を務めてきました。グッドデザイン賞の審査委員会は分野別にユニットが組まれ、その中で審査が進められます。僕は一貫してモビリティユニットに属してきました。

2022年の『グッドデザイン金賞』を受賞した、ホンダのパーソナルモビリティ『UNI−ONE』(写真奥)。
2022年の『グッドデザイン金賞』を受賞した、ホンダのパーソナルモビリティ『UNI−ONE』(写真奥)。    森口将之

つまり10年以上にわたり、最新のモビリティデザインと向き合い続けてきたと言えるかもしれません。そこで今回は、モビリティのデザインとは?というテーマで話を進めていきたいと思います。

今年度のグッドデザイン賞では、5700件を超える応募の中から、約1500件が受賞し、特に優れた100件が『グッドデザイン・ベスト100』となり、さらにその中から『グッドデザイン金賞』『グッドフォーカス賞』、そして『グッドデザイン大賞』が選出されました。

最近モビリティでグッドデザイン金賞を受賞したのは、自動倉庫『ラピュタASRS』、ハイブリッド乗用車『トヨタプリウス』、パーソナルモビリティ『ホンダUNI−ONE』などです。物流まで含めた広範なカテゴリーなのです。

たしかに最近はモビリティデザインというと、乗り物それ自体だけではなく、それを使ったシェアリングなどのサービス、MaaSをはじめとするアプリを使ったサービスなども含まれるようになっています。

デザインの両輪は『機能』と『官能』

とはいえ、あまり範囲を広げると分かりにくいかもしれないので、ここでは乗り物そのものに絞って見ていきます。その場合、モビリティのデザインには機能と官能の両輪があると思っています。これは審査の現場でも話題になることです。

機能の中には使いやすさや走行性能のほか、安全性能や環境性能も含まれます。一方の官能は人の気持ちを動かす要素、つまり美しさやカッコよさです。

市販化が期待されるマツダ・アイコニックSP。機能美が漂う凝縮されたフォルムに、官能美を醸し出すデザインが施された、スポーツカーらしい魅力を感じさせるスタイリングだ。
市販化が期待されるマツダ・アイコニックSP。機能美が漂う凝縮されたフォルムに、官能美を醸し出すデザインが施された、スポーツカーらしい魅力を感じさせるスタイリングだ。    森口将之

クルマの中で機能を最優先した存在と言えば、厳しいレギュレーションの中で最速を目指すF1マシンが思い浮かびます。F1マシンを美しい、かっこいいと思う人も多いかもしれませんが、それは機能美というものです。スポーツカーも運転の楽しさを味わうために設計されたので、機能美と言えるでしょう。

逆に官能を優先したクルマとしては、ラグジュアリークーペが思い浮かびます。その時代にふさわしい走行性能や安全性能、環境性能を押さえつつ、エクステリアもインテリアも美を極めたクルマたちです。もちろん2ドアのほうが官能度は上になるでしょう。

それ以外の乗り物は、それぞれの目的に応じて、機能と官能をバランスさせています。クルマで言えば、トラックやバスは機能重視で、乗用車はミニバンや軽自動車が機能寄り。そこにスポーティやラグジュアリーという要素が入るにつれて、官能重視になっていくのではないでしょうか。

鉄道についても同じように、もっとも機能的なのは貨物列車で、旅客列車では通勤用車両がそれに近く、特急用車両は官能的な部分が大きい、となりそうです。ところが最近、この考えを覆されるような出来事がありました。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。

森口将之の「もびり亭」にようこその前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事