他人へ響く美しさとは限らない ベントレー・コンチネンタル S2(2) 財力に物をいわせた独自ボディ

公開 : 2024.12.28 17:46

不格好に後方へ弧を描くウエストライン

このコンチネンタル S2は、1970年代初頭に転売。1973年から1974年にかけて、ベントレーのディーラー、ジャック・バークレー社がレストアを施した。1978年に、別のクラシックカー・ディーラーを通じて販売されている。

2023年に手放され、H&Hダックスフォードオークションへ出品。それまでの間にボディはシルバーへ塗装され、細かなアップデートが加えられた。フロントのウインカーは、ロールス・ロイス・シルバークラウドIII用のものだ。

ベントレー・コンチネンタル S2 ショートテール(ワンオフモデル/1960年)
ベントレー・コンチネンタル S2 ショートテール(ワンオフモデル/1960年)

実車を目の当たりにすると、サイド寄りの角度で眺めない限り、リアのオーバーハングが短いことには気付きにくい。それでも、ウエストラインは少し不格好に後方へ弧を描く。バランスが良いとは感じにくいだろう。

現在は、丸いオーバーライダーは変更。本来のデザインのものへ付け替えられている。スポットライトも、フロントマスクへ調和する円形へ交換済み。ダミーで与えられていた2本のテールパイプも、省かれている。

FLMパネルクラフト社は、リアフェンダーとトランクリッドのスタイリングに、最善を尽くしたとはいえるだろう。それ以前にマクロードが依頼した、独自ボディ以上の魅力があるとは、表現できないかもしれないが。

多くの人へ響く美しさになるとは限らない

彼も、もう少し改善できると考えたのかもしれない。2年後の1962年に登場したコンチネンタル S3のショートテール化を、FLMパネルクラフト社へ依頼している。

S2ベースとは異なり、リアウインドウからトランクリッドを滑らかなラインで繋いだ、ファストバック風のシルエットが選ばれた。より美しいプロポーションに仕上がっていたといえる。

ベントレー・コンチネンタル S2 ショートテール(ワンオフモデル/1960年)
ベントレー・コンチネンタル S2 ショートテール(ワンオフモデル/1960年)

リアバンパーからはオーバーライダーが外され、ナンバープレートはトランクリッドへ貼られた。給油には、そのトランクリッドを開く必要があった。フロントシートはスライド可能。ダミーのテールパイプが組まれ、バッテリーは荷室内へ移設されていた。

このS3は彼が手放した後、歌手のエンゲルベルト・フンパーディンク氏が1979年に購入。2018年に、ボナムズ・オークションへ出品されている。

大富豪の醍醐味の1つは、底を尽きない財力に物をいわせ、理想のクルマを手中に収められることだろう。しかし、必ずしも望ましいデザインが導かれるわけではない。大枚を叩いて個性的なボディを与えても、多くの人へ響く美しさになるとは限らない。

協力:テルクリスティ・カーセールス社

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ベントレー・コンチネンタル S2の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事