スパイダーからワンボックスまで! フィアット850 シリーズ(1) リアエンジンなイタリアの大衆車

公開 : 2024.12.29 17:45

3列シートで7シーターのファミリアーレ

850 ファミリアーレは3列シートを備え、7名の定員がうたわれたが、見た目はやや普遍的。600 ムルティプラのスタイリングは個性的だったが、スクエアなボックスボディが載っている。

そのかわり、月日を重ねても古びては見えず、キャンピングカーのベースとしても人気を獲得。1971年まで作られたベルリーナや、1972年までのクーペなどより遥かに長い、22年後の1986年までフィアットの工場は提供し続けた。

フィアット900E アミーゴ・キャンパー(1976〜1986年/欧州仕様)
フィアット900E アミーゴ・キャンパー(1976〜1986年/欧州仕様)

今回は、850シリーズ 4台にお集まりいただいた。真っ先に乗るべきは、グラハム・ホーン氏がオーナーの、1967年式ベルリーナ・ノルマーレだろう。筆者が10代だった頃、850を所有していた経歴を持つが、公道で乗るのは40年ぶりだ。

1960年代後半のイタリアの風景には欠くことができない、ベーシックカーの代表といえる。ドアを開くと、インテリアは至って質素。ダッシュボード上の小さなパネルに、横長のスピードメーターが収まる。

その左側に、ヘッドライト・スイッチ。ワイパーは、速度を変えられない。ステアリングコラムからは、ウインカーレバーが伸びる。フロアはラバーマットで覆われるが、アイボリーのボディカラーが各所で露出。天井の内張りも、薄いラバーシートのみだ。

ドアハンドルは、フェラーリ275と同じもの。クロームメッキされていないが。

古いポルシェ911と少し印象が重なる走り味

車重は670kgと軽く、至って活発。34psしかないから、タイヤが空転することはないけれど。シフトレバーとリアの4速MTは離れているが、ストロークは短く、ゲートを選びやすい。小さなエンジンを目一杯回す、ささやかな楽しみを謳歌できる。

防音性は高くないものの、エンジン音は殆ど聞こえない。BMCミニが積んだAシリーズ・ユニットより滑らかで、洗練されている。

フィアット850 ベルリーナ・ノルマーレ(1964〜1971年/欧州仕様)
フィアット850 ベルリーナ・ノルマーレ(1964〜1971年/欧州仕様)

起伏が続く公道を飛ばせば、古いポルシェ911と印象が少し重なる。フロントノーズは、上下の動きが大きい。ステアリングは適度に軽く、クイックで、正確に反応する。ベルリーナ・ノルマーレの印象は、筆者の遠い思い出を鮮やかなものにする。

こんな走行性能の高さを、フィアットは見逃さなかった。1965年のイタリア・ジュネーブ・モーターショーで、850 クーペとスパイダーが発表される。パワートレインやシャシーへ、しっかりアップデートを施して。

排気量は843ccと変わりなかったが、ツインチョーク・ウェーバーキャブレターと専用カムシャフト、4分岐の排気マニフォールドを与えることで、4割もパワーアップ。47psが絞り出された。発生回転域も、1200rpmプラスの6200rpmに設定された。

ホイールは13インチ。ブレーキは、850 ベルリーナでは前もドラムだったが、ディスクが採用されている。

今回ご登場願ったレッドのクーペは、スポーツクーペへ改称された、1968年以降のシリーズ2。エンジンは903ccへ拡大され、最高出力は52psへ上昇。最高速度は、143km/hが主張された。

この続きは、フィアット850 シリーズ(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

フィアット850 シリーズの前後関係

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