「デジタルデトックス」な楽しさ フォルクスワーゲン・ゴルフ Mk1へ試乗 50周年を祝う
公開 : 2024.12.30 19:05 更新 : 2024.12.31 16:59
初の試作車はポルシェ デザインはジウジアーロ
フォルクスワーゲン・タイプ1、ビートルの後継モデルとして開発されたゴルフは、当初ポルシェがEA266型と呼ばれるプロトタイプを提案。ハッチバックのボディで、充分な荷室も得ていたが、水冷エンジンはリアシートの下に載っていた。
整備性が悪いと判断され、次のEA276型はフォルクスワーゲンが開発。フロントエンジンの前輪駆動に、トーションビーム式リア・サスペンション、リアシートの下へ位置する燃料タンクなど、最終的なパッケージングが大まかに完成していた。
しかし、エンジンはビートル譲りの空冷フラット4。求められる動力性能や信頼性には、届いていなかった。
量産仕様へ近いプロトタイプ、EA377型を手掛けたのは、アウディの技術者、ルドルフ・ライディング氏のチーム。水冷の直列4気筒が与えられ、ジョルジェット・ジウジアーロ氏による、特徴的なスタイリングをまとっていた。
「当初の提案では、ヘッドライトは長方形で、テールライトと形状を呼応させる予定でした」。ジウジアーロが後年に説明している。
「しかしコストを理由に、円形を選びました。数1000台も生産するなら、作りやすく設計しなければなりません。自分は、スタイリスト以上の存在である必要があります」
当初のレシピを守り続けてきた強み
デザインの特徴も含めて、ゴルフは8代目まで当初のレシピを守り続けてきた。それが巨大な強みだ。実用的で高効率で、製造品質が高く、手に届かないほど高価ではなく、日々の要望に応えるクルマとして、何世代も乗り継いできたユーザーは少なくない。
同時に、ゴルフは進化を止めなかった。Mk2では燃費を改善し、四輪駆動とABS、パワーステアリングを獲得。Mk3ではエアバッグが採用され、V6エンジンのVR6も登場している。2024年に売られているゴルフは8代目。誕生から50年という節目に当たる。
電動化時代の後継車と呼べる、ID.3も登場した。筆者はそれが嫌いではないし、モルモットのような見た目は、カッコいいとすら思っている。
だが初代ゴルフを運転してみて、そのダイレクト感に深く感動してしまった。これは、どんなバッテリーEVにも備わらないものだろう。近年の内燃エンジン・モデルでも、得られていない例は少なくないが。
Mk1のゴルフには、パワステがない。同僚のマット・プライヤーは、この感触をやんわりアドバイスする感じ、だと表現したが共感する。手応えは重く、遊びも小さくなく、正直曖昧だからだ。半世紀前は、鋭く感じられていたはずだが。
シフトフィールはソリッドではない。エンジン音は耳につく。現代のクルマと比べれば、ボディは傾くし静かではない。しかし、不思議な安心感がある。コーナーへ飛び込み、エンジンを吹かせば、充足感が湧いてくる。はっきり楽しい。