【第3回】サイトウサトシのタイヤノハナシ ~トレッドデザインについて深掘りしてみた~

公開 : 2024.12.18 17:05

タイヤが大好物のサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなく披露するこのブログ。第3回は、前回に引き続きスタッドレスタイヤの話。実験でわかったことを踏まえ、トレッド設計をより深く考えます。

当てずっぽうで走るしかないスリックタイヤ

前回、スタッドレスタイヤのトレッドパターンを見ているだけでご飯3杯くらいイケる、なんて書きましたが、そのわりにトレッドデザインへの言及が少なかったので、今回もスタッドレスタイヤのトレッドパターンの話をしてみたいと思います。えっ、もうお腹一杯? まあそう言わずにお付き合いください。

いきなりですが、スタッドレスタイヤにトレッドデザインがないとどうなっちゃうでしょう? つまりスタッドレスタイヤのコンパウンドで作ったスリックタイヤです。

スリックタイヤはハイグリップながら、予測に確信が持てないので、運転が神経質になる。
スリックタイヤはハイグリップながら、予測に確信が持てないので、運転が神経質になる。    斎藤聡

実は私、そういうタイヤに実際に乗ったことがあるのです。

このタイヤは、グリップ性能は高いのですが、ハンドルを切った時の手ごたえに引っかかりがなく、うまく走らせるのに苦労しました。ただ、接地面積は最も広いデザイン(?)なので、グリップ性能は高いわけです。

氷盤路で走ると、なかなか速い旋回スピードを見せてくれます。ただグリップの手応えがほとんどないので、滑り出しの感触はなく、ほぼ……というか完全に予測。このくらいグリップしてくれるんじゃないか、とか、旋回スピードはこんなものだろう、と思える速度で走らせてみる。上手くいくと速い旋回ができるのですが、ちょっとした加減でタイヤが滑り出してしまい、外側に膨らんでいってしまいます。

フッと横Gが抜けるので、滑り出しの瞬間を知ることはできますが、手応えはほとんどありません。グリップは高いけれど、神経質で走りにくいのがスリックタイヤです。

縦も横も単体では溝の効果は物足りない

では縦溝を3本入れるとどうなるでしょう。

縦溝3本のみのトレッドパターンだと、直進状態から左右に握りこぶし1個分の手応えが明瞭になります。路面にタイヤが引っかかるというか、爪を立てるような手応えができ、その手ごたえは握りこぶし1個分ほど感じ取れますが、それ以上に切ると徐々に手応えが薄くなって、その先は手応えがなくなってしまいます。

縦横に溝を入れるのは、それぞれにはたらきがあるから。どちらかだけを入れると、フィールに得るものがある代わりに失うものもある上、グリップ性能を落とすことにもなる。
縦横に溝を入れるのは、それぞれにはたらきがあるから。どちらかだけを入れると、フィールに得るものがある代わりに失うものもある上、グリップ性能を落とすことにもなる。    斎藤聡

ちなみにグリップ性能は、溝3本分だけスリックより少なくなります。接地面積溝3本分がはっきり感じられるくらいグリップ性能に違いが現れます。絶対的なグリップ性能はスリックに負けますが、引っ掻きグリップ力が加わるので、手応えがはっきりあるぶん、ハンドルを切り出して旋回に入るのがとても楽になります。

次に試したのは横溝のみのパターン。溝の間隔は接地面に溝が2本~3本かかるくらいのピッチです。

どうなったと思います?

縦溝パターンで感じられた直進から握りこぶし1個分の手応えがなくなってしまったのです。代わりに握りこぶし1個分切ったところから、舵角にして90度くらいまでの手応えが現れたんです。

ハンドルを切り出した時の手応えと引っ掛かりがないので、曲がり出しをスムーズにはやりにくいのですが、ハンドルを深く切ると手応えが現れます。曲がり出しもハンドルを切り足していくと少し手ごたえが出てくるので、前輪が外に逃げていく、いわゆるアンダーステアを出しながら強引に手応えと引っ掛かりを出して旋回に入ることもできます。

つまり横溝だけのパターンだと、ハンドルの切り出しの手応えはないけれど、ハンドルを45度くらい切った先から90度過ぎくらいまでの手応えが出てくるわけです。ハンドルを切った時に手応えがしっかり出てくるので、定常旋回がとてもやりやすいのです。

グリップ性能は、スリックよりも少なく、ほぼ縦溝パターンと同じでした。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    斎藤 聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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