気軽なメルセデス・ベンツ540Kを夢見て クーリエ・キャデラック(1) 社長のワンオフ

公開 : 2025.01.04 17:45

とある社長が少量生産を夢見た、気軽に乗れるメルセデス・ベンツ540K ベースは1978年式キャデラック 美しいプロポーション 良好な操縦性 ワンオフの珍車を英編集部がご紹介

高く評価されにくいクラシックカーの再現

グレートブリテン島の南東に、チルストンパークという、18世紀に建てられた邸宅がある。レンガ造りの壁と、美しく装飾された窓を、寄棟屋根が覆う。英国的な上げ下げ式の窓枠や、大きな暖炉を備えつつ、南イタリアの別荘を彷彿とさせる佇まいは見事だ。

モダンさとクラシックさが、絶妙に融合。現在は高級ホテルとして活用されている。
趣味の良い贅沢が味わえるとして、利用者からの評判は高いという。

クーリエ・キャデラック(1991年/ワンオフモデル)
クーリエ・キャデラック(1991年/ワンオフモデル)

チルストンパークの建築は、華やかなローマ時代に影響を受けたといえる。クルマも、懐古趣味的なデザインが好まれることは多い。とはいえ、ローマ時代の馬車へ強く憧れる人はいないだろう。

アメリカ・カリフォルニア州には、1928年のメルセデス・ベンツSSKを蘇らせたいと願った、エクスカリバー・オートモビル社が存在した。同社によるSSの発売は1963年で、数10年ほど遡っただけだが、クルマは建築より時間の流れが速い。

一般的に、クラシカルなスタイリングの再現は、高く評価されにくい。現代的なモデルをベースに、均整の取れたプロポーションを生み出すことは、簡単でもない。その時代感にそぐわないディティールが、与えられがちになる。

BMW傘下後のミニやフィアット500などは、新たにデザインし直すことで、巧みに再解釈されている。しかし、英国のNGカーズや日本の光岡はどうだろう。世界に通用する完成度とはいいにくいと思う。

現代技術で運転しやすい540Kのレプリカ

1936年発表のメルセデス・ベンツ540Kが、1980年代後半に驚くほどの高額で取引されていることへ、疑問を抱いた英国人がいた。企業の展示会用ブースの製作で業績を伸ばした、クーリエ・プロダクツ社を営んでいた、ロバート・メイドメント氏だ。

彼は、過度の出費を抑えつつ、現代的な技術で運転のしやすさを叶えたレプリカを作ろうと考えた。ゼロからの開発は選ばず、手頃な既存モデルを改造するという、賢明な手法で。技術的な変更は、それを得意とする企業へ外注することを選んだ。

クーリエ・キャデラック(1991年/ワンオフモデル)
クーリエ・キャデラック(1991年/ワンオフモデル)

自社の株主を説得したメイドメントは、プロトタイプの予算を工面。当時のロールス・ロイスの半額程度へ金額を抑え、受注生産するという新規の事業計画が立てられた。発売目標は1991年。5万ポンドは、モーガン・プラス8の2台分の英国価格に相当した。

多くのレプリカが不自然に見える理由を、彼はタイヤやホイール、ボディのバランスにあると捉えていた。市場に流通するクルマのホイールベースなどを計測し、540Kの再現に最適なベース車両を探すことから、プロトタイプの開発は始まった。

一企業の社長として、メイドメントはキャデラックを好んでいた。偶然にも、540Kにかなり近い比率にあったのが、彼が乗っていた1978年式のサルーン、セビル。長いホイールベースと、幅が細くサイドウォールの高いタイヤを備えていた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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