違和感ナシのレプリカ? クーリエ・キャデラック(2) 屋根は半分で切断 内装はセビルのまま

公開 : 2025.01.04 17:46

本物の540Kでは得られない快適性

キャデラックらしく、広々とした直線を流している時間が最高。現代的な技術で設計されたセビルのシャシーは、グレートブリテン島の管理の良くないアスファルトを難なく処理する。540Kでは、得られない快適性といえる。

操縦性も悪くない。初代セビルは、欧州のモデルを強く意識した走りが狙われていた。ボディロールは小さくないものの、一度姿勢が決まれば高いグリップ力で活発にコーナリングできる。ヨットのように、ユサユサと揺れることはない。

クーリエ・キャデラック(1991年/ワンオフモデル)
クーリエ・キャデラック(1991年/ワンオフモデル)

ボディ後方が軽くなったため、リア・サスペンションは調整を受けている。その結果、安定性は高い。ステアリングも驚くほど正確。余計な振動は伝わらず、軽く回せ、遊びは小さい。強めにペダルを踏む必要がある、ブレーキも良く効く。

V8エンジンは軽くなく、気張りすぎるとアンダーステア。ステアリングホイールを回すと、1秒ほど遅れて重心移動が決まり、ボディを傾けながら回頭が始まる。

果たして、メイドメントの540Kは、想定より高価に仕上がった。複数を生産しても、1台当たり10万ポンドを超えると見積もられた。1990年前後からクラシックカー市場は停滞傾向にあり、英国経済も低調になり、売れる見込みはほぼなかった。

地元企業の協力を得ながら、1台は形になった。しかし、低摩擦のドアヒンジという、自社が取得した特許技術のPRに用いられたのみ。販売へ至ることはなかった。

仕上がりには満足していた社長

それでもメイドメントは、仕上がりには満足していた。21年間所有し、6万kmの距離を重ねている。普段の買い物や、シルバーストン・サーキットでのタイムアタック、グッドウッド・サーキットでの自動車イベントなどへ、積極的に出かけている。

モデル名は、最終的に彼が営むクーリエ・プロダクツ社にちなんで、クーリエ・キャデラックへ落ち着いた。メイドメントが住んだ地元では有名な1台になっていたが、乗る機会が徐々に減り、状態を維持してくれる人を求めて手放された。

クーリエ・キャデラック(1991年/ワンオフモデル)
クーリエ・キャデラック(1991年/ワンオフモデル)

2011年7月に、ボナムズ・オークションへ出品。アラン・キャリントン氏が、2番目のオーナーになっている。それ以来、キャリントンは1万3000kmほど距離を伸ばした。かなり乗りやすい540Kのレプリカであることは、間違いなさそうだ。

協力:アラン・キャリントン・クラシックカーズ社

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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