EVの加速性能は危ない? ガソリン車から乗り換えるときの安全性に疑問

公開 : 2024.12.23 18:05

多くのEVは強力なモーターと瞬時のトルク発揮によって驚異的な加速性能を誇るが、不慣れなドライバーには過剰ではないのか。英国では実際に、エンジン車よりもい事故率が高いという指摘も上がっている。

クルマ好きも戸惑う速さ

平日はアウディS6、週末はトヨタGRスープラに乗っているというフィリップ・トーマスさんは、まさに典型的なクルマ好きと言えるだろう。

少なくとも、IT専門家であるトーマスさんが最近、3台目のクルマとしてスマート#1を迎え入れるまでは、近所の人たちもそう思っていたはずだ。

多くのEVは強力なモーターと瞬時のトルク発揮によって驚くほどの加速性能を持つ。(写真はAUTOCAR英国編集部の記者)
多くのEVは強力なモーターと瞬時のトルク発揮によって驚くほどの加速性能を持つ。(写真はAUTOCAR英国編集部の記者)    AUTOCAR

えっ? と驚く人もいるかもしれないが、普通の#1ではない。標準モデルの最高出力はゴルフGTIを上回る272psだが、トーマスさんが選んだのは428psのブラバス仕様だ。これはアウディS6とほぼ同等のパワーである。

しかし、S6がパフォーマンスを重視した低重心のセダンであるのに対し、スマート#1ブラバスはコンパクトSUVである。フロントに電気モーターが追加されていることを除けば、タイヤやサスペンションに至るまで標準モデルとほとんど同じだ。

「ブラバス仕様は確かに速いが、エレガントとは言えない」と、このモデルを試乗したAUTOCARの記者はコメントしている。

トーマスさんは、#1ブラバスの性能を「暴力的」と表現している。「アウディやトヨタではツインターボの回転とパワーの立ち上がりが感じられますが、ブラバスでは一瞬ですよ」

「注意していないと、あっという間に130km/hに達してしまいます。エンジン音が大きくならないのも要因ですね。とても速いのですが、(前後の)モーター間で動力を配分しているため、システムがせわしなく動いているのが感じられます。一方で、わたしのS6は安定しているように感じられます」

「高齢の母が、以前のスコダ・ファビアから、272psのスマート#1に乗り換えるなんて想像もできませんでした」

しかし、EVに乗り換えるドライバーの多くが、まさにそのような移行を経験しているのだ。

全員がすぐに最高出力428psのEVに乗り換えるわけではないが、ホットハッチを楽々と追い越せるクルマに乗り換える、あるいはアップグレードする人は多い。

ショールームに並ぶ新車EVのうち、0-100km/h加速に10秒以上かかるのは、フォルクスワーゲンのID.5プロ(最高出力174ps)など、ほんの一握りである。

英国では事故率に違いも

EVの性能の高さについては、自動車保険会社も注視している。一部の保険ブローカーは、EVはガソリン車やディーゼル車よりも事故に遭う可能性が高いと述べており、その理由として、EVの方が速いからだと説明する。

「EVの事故による保険請求は、エンジン車よりも26%多い」と、英国およびアイルランドに220店舗を構える保険ブローカー、ハウデンUK&IリテールのCEOであるカール・シューカー氏は言う。

最近3台目の自家用車としてEVを購入したフィリップ・トーマスさん。その加速性能には慣れが必要なようだ。
最近3台目の自家用車としてEVを購入したフィリップ・トーマスさん。その加速性能には慣れが必要なようだ。    AUTOCAR

「なぜEVの事故が多いのか? それは、EVがはるかに高速だからだ。自動車保有台数全体の中で見れば、EVはかなり性能が高いほうだ」

「高性能のエンジン車では、標準モデルよりも保険請求の件数が多い。したがって、EVが高性能であれば、請求の頻度も高くなる」

シューカー氏は、EVの方が高出力なだけでなく、そのパワーの伝達方法にもリスクが潜んでいる可能性があると指摘する。

「EVでは瞬時に反応するので、エンジン車とは異なる運転体験となる。それでも、事故の種類や内容は他のクルマと同じだろう」

「EVは事故による損傷頻度が高いが、幸いにも深刻な損傷を負う頻度は低くなっている。これは、安全機能と技術によるものだ」

実はシューカー氏のように、EVの保険料が高い理由として、性能の高さと事故率の高さを挙げる人物は数少ない。

他の保険会社はEVの修理費の高さを強調しているが、シューカー氏もこれに同意し、EVの平均修理費が2570ポンド(約50万円)であるのに対し、エンジン車の平均は1916ポンド(約37万円)であると述べている。

また、適切な資格を持つエンジニアが不足していることも一因となり、修理には平均14%余分に時間がかかるという。しかし、これほどまでにEVの性能の高さをはっきりと指摘する人はほとんどいない。

EVの事故率が高いという経験は、昨年1月に2万台のテスラ車を手放した米レンタカー大手ハーツ社も共有するところだ。

同社がテスラのEVを売り払った理由の1つとして、利用者がエンジン車よりも事故に巻き込まれやすいということが挙げられている。

保険アナリストのレクシスネクシスによると、エンジン車からEVに乗り換えた人は、エンジン車から別のエンジン車に乗り換えた人よりも、1年以内に事故を起こす可能性が高いという。

EVの事故率を下げるために、シューカー氏はドライバー研修の充実化とEV性能競争の抑制を望んでいるが、現実的な唯一の解決策は、EVに対する理解を広めることだと認めている。

シューカー氏は、祖母が初めてスピード違反で捕まったときのことをよく覚えているという。

「祖母は、ガソリン切れになる前に急いでいたと説明した。EVでも同じようなことが少しはあるのではないかと思う」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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