こういうのが好きなんでしょ? 大排気量V8を載せた70年代のアメ車 英国記者の視点

公開 : 2024.12.27 18:05

フォード・サンダーバードに代表されるフルサイズのアメ車は「ランドヨット」とも呼ばれ、1970年代にピークを迎えた。AUTOCAR英国編集部のジャック・ハリソン記者が自身のランドヨット愛を力説する。

「ランドヨット」と呼ばれたフルサイズのアメ車

辛抱強い同僚ならご存じだろうが、目を覆いたくなるようなサイズの新型SUVが発表されると、筆者は真っ先に「最近のクルマは大きくなりすぎだ」と嘆く1人である。

なのに、なぜ「ランドヨット(陸上ヨット)」と呼ばれるようなフルサイズのアメ車を愛するのか? 答えは単純で、その純粋なバカバカしさに匹敵するクルマはほとんどないからだ。もっと詳しい答えは、その魅力的な歴史にある。

フォード・サンダーバード(第6世代)
フォード・サンダーバード(第6世代)

1957年、フォード・サンダーバードは2人乗りのコルベットのライバルから、全長5.2m、4人乗りの豪華な大型車へと変貌を遂げた。

このアイデアは大成功を収め、最初の3年間で20万台が販売され、他社の注目を集めることとなった。

1960年代になると、米国のクルマ購入者は選択肢に恵まれるようになった。

V8エンジンを搭載した初のFF「パーソナル・ラグジュアリー・カー」であるオールズモビル・トロネード(全長5359mm)、印象的なビュイック・リビエラ(全長5823mm)、そして最も贅沢なキャデラック・エルドラド(第4世代で全長5715mm)などが登場した。

筆者の目には、これがランドヨットの頂点のように映った。特にリビエラは、6m近いゴージャスで鋭角的なスタイリングに、最高出力340psの7.0L V8エンジンが搭載された、実に素晴らしいクルマである。

高速道路でのクルージングというシンプルな目的のために作られたクルマであり、これほどまでにスタイリッシュなクルマは他にないと言っても過言ではない。

大きな車体はセールスポイントと見なされ、米国の広大な道路環境もあり、クルマがどんどん大型化していった。

1970年代半ばには、2ドアのリンカーン・コンチネンタル・マークIVは全長5.8mに迫り、キャデラック・クーペ・ドゥビルは5.9mに近づいていた。エンジンも巨大だった。

これらの大型車のほとんどは、6.0Lから8.0LのV8エンジンを搭載していた。

しかし、1973年の石油危機により、居場所を失うことになる。

排ガス規制は大排気量のエンジンを単なるハリボテにした。1975年のクーペ・ドゥビルは8.2Lエンジンを搭載していたが、最高出力はわずか190psに抑えられた。その結果、性能が落ち、正直に言って恥ずかしいほどのノロノロ運転しかできなくなり、滑稽な長さのボディも縮小した。

1980年代の到来とともに、ランドヨットは沈没した。その頃には、この種のクルマのキャラクターは以前とはまったく異なるものとなっていた。

筆者は映画『グッドフェローズ』を何度も観過ぎたのかもしれないが、筆者はこのランドヨットを、過去の栄光にすがって、自分たちには小さくなりすぎた世界で差し迫った終焉に目を背けている、どこか悪役的なキャラクターの持ち主だと見ている。

どこでも見かけてもランドヨットは特別だが、英国で見られるのは格別だ。

滑稽なほど大きく見えるが、それを愛する人々が、本来設計されたよりもはるかに狭い環境で使用していることは素晴らしいと思う。

それらはあまりにも不適切で、現代の世界においても異質であるため、見かけるたびに思わず微笑んでしまう。

記事に関わった人々

  • ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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