ヒョンデ vs ポルシェ? 古い固定観念は消えつつある 英国記者の視点

公開 : 2024.12.26 06:05

乗っているクルマで人を判断することはできなくなった。業界のあり方やマーケティング方法も変わってきている。AUTOCAR英国編集部のマット・プライヤー記者は、クルマに対する価値観の変化に思いを寄せる。

クルマに対する価値観は変わった。

あなたは、人が使っているテレビや冷蔵庫、洗濯機、食器洗浄機、携帯電話によって、その人を判断するだろうか?

筆者(英国人)はそうは思わない。自宅の冷蔵庫がどのメーカーのものなのか、それさえもはっきりとはわからないが、家族よりも冷蔵庫を見る機会の方が多い。

以前は、ポルシェとヒョンデを同じ土俵に立たせて比較するとは考えられなかった。
以前は、ポルシェヒョンデを同じ土俵に立たせて比較するとは考えられなかった。

どうやって手に入れたかは覚えている。古い冷蔵庫が壊れたので、近所に住む親切な老夫婦が広告を出していた中古品を見つけたのだ。

その部分、つまり人間的な側面はよく覚えているが、前面に書かれたブランド名は? 過去10年間、1日に何度も目にしていながら、よくわからない。たぶんボッシュだと思う。ちょっと待って、確認してみる……。

そう、ボッシュのClassixxだ。冷蔵庫愛好家にとっては、おそらく「食品を冷やし、ドアを開けたときに照明が点く」ことで有名なのだろう。

Classixxを持っているからといって、自分がどんな人間か判断されたくない。筆者はただ、酸っぱくなるのが早い牛乳が嫌いな人間だ。

しかし、人を判断するほどではないにしても、どんなクルマに乗っているかで、その人のことがある程度分かると思っているタイプの人間だ。

一昔前までは、かなり一般的なことだった。あまりにも一般的で簡単だったので、ほとんどの人がそうしていたと思う。飛ばし屋っぽい人は◯◯(おそらくBMW)に乗っている。のんびり屋さんは△△(おそらくスコダ)に乗っている。双方を比較検討しているわけではないので、先入観が簡単に持たれてしまう。

そう、一昔前までは。1990年代のヒョンデのマネージャーが、同ブランドのキーをパブのテーブルに置いて、それがメルセデス・ベンツや他の高級車ブランドと同じようにリスペクトされるようにしたいと語っていた、という話を耳にしたことがある。

もちろん、当時その話を聞いた人は笑っていた。しかし、今はどうだろうか? 筆者は今、ヒョンデとポルシェを比較する動画を作ったところだ。

今年初め、筆者の友人は月1200ポンド(約23万円)の会社リース車の最終候補に、ロータスレンジローバー、そしてキアを残していた。ロータスはかつてスポーツカーのみを製造していたし、キアは低価格のファミリーカーを追求するメーカーだった。

今日、両社は8万ポンド(約1580万円)の電動SUVという共通点を持っているが、正直なところ、どちらがより高く評価されているか、筆者には判断つかない。

こうした伝統的なブランドが混在しているところへ、一方からはテスラやリビアンといった比較的新しい企業、もう一方からはBYDや新生MG、その他数えきれないほどの中国メーカーが参入してきている。もし筆者がマーケティング担当者なら、20年前や10年前に売れていた理由が、明日も通用するとはまったく確信できないだろう。

だからこそ、多くの企業がレトロ路線を強化しているのだと思う。ルノー5のように、「当社を信じてください。当社はこの分野で何十年も本当に優れた実績を誇っています」と。確かにその通りだ。しかし、それだけで十分なのだろうか?

しばらくの間はそれでいいかもしれない。BMWは自社のクルマが運転しやすいことを人々に訴え続け、アウディは自社が技術リーダーであると主張している。何十年も前から伝えてきたメッセージだ。

筆者が目にするありふれた中国製EVのほとんどは、明らかにクルマやドライビングに興味がなさそうな年配の男性が運転している。かつてプロトンを買っていたような人たちだ。

しかし、明日の購入者はどうだろうか? クルマを製造する企業はかつてないほど増え、どの企業もかつてないほど優れた技術を持っている。そのため、Z世代やアルファ世代、そして彼らの後に続く人々がブランドに関心を持っていたとしても、多くの広告やメッセージにさらされるだろう。

そのうちのいくつかが彼らの心に響くことは避けられない。しかし、ブランドにとってより懸念すべきなのは、クルマへの関心が薄れたらどうなるかということだ。人々がクルマを冷蔵庫や食器洗い機のように考えるとしたら?

何百種類ものクルマがあり、それらはほとんど同じで、どれも牛乳を冷やす程度の機能しかない。

もし、筆者が何十年もかけて確立した強いブランドイメージを持つ企業の責任者であったなら、そのイメージを人々にシンプルかつ大きな声で伝え続け、それが定着することを願うだろう。そして、仮にそのようなブランドを持っていなかったとしたら、静かに恐怖を感じるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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