実験的「F」の終止符 レクサスRC F アルティメット・エディションへ試乗 魅惑的なV8の音響体験

公開 : 2025.01.05 19:05

魅惑的な音響体験 調和の取れた操縦性

それでは、5.0L V8エンジンを起動しよう。鍛造コンロッドが組まれ、バランス取りされ、自然吸気で、サウンドは非常に魅惑的。高回転域まで滑らかに吹け上がり、聞き惚れる響きがキャビンに充満する。これ以上の音響体験を生むモデルは限られる。

8速ATがギアを変える度に、聴覚が満たされる。ただし、最新モデル並みに速度上昇が鋭いわけではない。0-100km/h加速は4.7秒で、0-161km/h加速には10.5秒を要する。

レクサスRC Fアルティメット・エディション(英国仕様)
レクサスRC Fアルティメット・エディション(英国仕様)

絶対的な速さではなく、過程を堪能したいと思う、クルマ好きの気持ちへ応えてくれる。もっとも、3500rpm以上で発揮されるパワーは、公道ではまったく不足ないが。

素晴らしい印象を濁すのが、トルクコンバーター式の8速AT。ロックアップ性を高めたと主張されるが、ダイレクト感は今ひとつ。マニュアル・モード時も、3000rpm以下ではそんな印象が強い。Dから変えないドライバーを、想定したようなユニットだ。

カーボンセラミック・ブレーキは強力。ペダルの踏力で、制動力を調整しやすい。

操縦性は全体的に調和し、記憶に残る体験を得られる。ロックトゥロック2.9回転のステアリングは、さほどクイックではないが、連続するカーブでは緩やかにボディを傾けながら、流暢にラインを辿っていける。

カーブの頂点を過ぎパワーを加えると、外側のタイヤへ積極的に割り振られ、リアアクスルは微妙にスライド。フロントノーズの指し示す方向へ押し出される。

ノーズヘビーなバランス ハイライトは操舵感 

ステアリングフィールはハイライト。適度な重み付けでコミュニケーションを取りやすく、直感的に反応してくれる。

サーキットでは、アクティブ・リアディファレンシャルが効果的に機能。旋回時の反応を高める、トラック・モードやスラローム・モードも備わる。充分に機敏で、安定性は高い。オーバーステア以上の姿勢へ持ち込むには、かなりのきっかけが必要になる。

レクサスRC Fアルティメット・エディション(英国仕様)
レクサスRC Fアルティメット・エディション(英国仕様)

しかし、コーナーでのフラット感やグリップ力、ライン調整の自在さで、ノーズヘビーなシャシーバランスからは逃れられない。1.7tの重さを忘れることも難しい。BMW M4のように、限界付近で楽しめるわけではないだろう。

燃費は、カタログ値で8.5km/L。高速道路を流すような条件なら、10.5km/L程度は得られるようだ。満タンでの航続距離は、最大で約700kmとなる。

RC Fは、英国での販売が終了している。全体で30台のアルティメット・エディションが、何台グレートブリテン島へ上陸したのかは不明だが、希少なことは間違いない。

ポルシェのRSやBMWのMのように、サーキット・フォーカスのシャープな操縦性までは宿さない。とはいえ、特有の高級感とV8エンジンの味わいは、特長的な個性として乗る者へ強く印象付ける。

レクサスによるFの、節目を刻むRC F アルティメット・エディション。最後までやや実態を掴みにくいモデルとはいえたものの、強い好感を抱く仕上がりで幕は閉じられた。

◯:劇場的なパワーデリバリー 高級で魅惑的なインテリア
△:乗り心地と操縦性に表れる車重 スポンジーな8速AT サウンドの迫力に比べてパワー感が低い

レクサスRC Fアルティメット・エディション(英国仕様)のスペック

英国価格:9万3745ポンド(約1828万円)
全長:4710mm
全幅:1845mm
全高:1390mm
最高速度:270km/h
0-100km/h加速:4.3秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:268g/km
車両重量:1715kg
パワートレイン:V型8気筒4969cc 自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:463ps/7100rpm
最大トルク:52.9kg-m/4800rpm
ギアボックス:8速オートマティック(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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