「いまさら」トヨタGRスープラを愛してしまう理由 ついに生産終了が告げられた 英国記者の視点

公開 : 2025.01.09 06:05

最高出力435psの特別仕様車とともに、トヨタGRスープラの生産終了が告げられた。他のライバルと比較して抜きん出るところは少なかったが、年月が経つにつれて「もっと好き」になったとAUTOCAR英国記者は語る。

クルマの良さがわかるまでには時間がかかる

限定生産の特別仕様車「ファイナル・エディション」とともに、トヨタGRスープラは、2019年初頭のデトロイト・モーターショーでの発表から約6年を経て、舞台を去ろうとしている。

筆者には6年という歳月には思えない。トヨタは2012年から新型スープラの量産化について語っていたが、初めてプロトタイプを目にしたのが2018年で、カモフラージュが施された試作段階の「A90」を試乗したのが2019年9月だ。

トヨタGRスープラA90ファイナル・エディション
トヨタGRスープラA90ファイナル・エディション    トヨタ

筆者の年齢のせいかもしれないが、まだ登場して間もないように思える。しかし、435馬力の限定車で走り去っていくという。

いずれにしても、スープラを英国で購入するのはそれほど容易ではなかった。英国市場には年間わずかな台数の割り当てしかなく、その結果、トヨタの価格表に載ったり消えたりしていた。

ファイナル・エディションは世界限定300台で、英国に何台割り当てられるかはまだ明らかになっていない。

ただ、出力アップ、サーキット仕様のGT4から採用された調整可能なKWダンパー、新しいドリルドブレーキディスク、アクラポヴィッチ製エグゾースト、オイル不足を防ぐサンプ内のバッフル、ボディ補強、外装の空力パーツ、そして見た目にはかなり座り心地が悪そうなシートなど、数多くの変更が加えられている。サーキットで真価を発揮しそうな1台だ。

しかし、スープラは(筆者には)登場してからそれほど時間が経っていないように思えるが、このクルマに対する筆者自身の態度は明らかに変化した。これは、近い時期に生産終了となるアルピーヌA110に対する気持ちとは全く異なるものだ。

A110は発売当初から今でも変わらずに愛している。(ちなみに、A110はまだ販売されているが、EUの安全規制GSR2に準拠していないため、欧州全体で年間1500台しか販売できない。なぜ英国はこれを免除しないのか? なぜ我々は議会にデモ行進してA110の販売台数を増やすよう要求しないのか?)

一方、スープラは、2019年のAUTOCAR英国編集部のロードテストでも「もっと欲しいと思わせる」クルマという評価だったが、今の方がもっと好きだと思える。

スープラは、A110でもなければ、ポルシェ718ケイマンでもない、どちらかといえば「中途半端」なクルマだった。良いクルマだが、ポルシェに対抗し得る競合車の中では、おそらく最も満足度が低いだろう。

今日、筆者はスープラの在り方にこれまで以上に惹かれている。筆者は6気筒エンジン、オートマチック・トランスミッション、その他、普通のクルマ以上のものを望んではいない。

重量配分は51:49(BMW Z4とプラットフォームを共有していることを覚えておいてほしい)で、速いクーペであり、確かに機敏に走ることはできるが、運転していると比較的リラックスした雰囲気が漂う。

まさに、そこが気に入っている。未来のクラシックカーとして、このクルマには大きな魅力がたくさんあると筆者は考えている。

時が経つにつれて魅力を増すクルマもあると思うが、その理由を正確に説明できる人はまだいない。

しかし、発売当時はクラスをリードする存在ではなくても、今では落ち着いた印象を与えるスポーツカーは、その代表格であることは間違いない。友人の1人は初期型のメルセデス・ベンツSLKに乗っているが、これは世界最高のオープンカーというわけではない。しかし、彼はクルーザーとして愛用しており、筆者もその気持ちはよく分かる。

先日、筆者は米国のある地域をクルマで回った。そこでよく見かけたのは、「売り出し中」のサインを窓に掲げたさまざまなクルマが、交通量の多い道路沿いに駐車されている光景だ。

ほとんどが、ボロボロのマッスルカーや古いピックアップトラック、やつれた四輪駆動車ばかりだった。どれも運転するにはかなりひどい代物だが、そのどれかを毎日購入して乗り回せるだけでも、そこに引っ越す価値があるだろう。

それに、スープラの場合、他の多くの日本製スポーツカーと同様に、すぐに後継車が発売されないことで、余計に喪失感が強まると思う。

新しいホンダNSXが出るまで数十年の空白があったし、現在、トヨタMR2やセリカは存在しない。ホンダS2000も存在しないし、ロータリーエンジン搭載のマツダのクーペも購入できない。

日本人は、モデル間に空白期間があることに慣れているようだ。スープラが生産終了になる前に、その存在を我々はもっと評価すべきだったのかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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