「三菱ランエボX」が北欧ポールスターのEVに影響を与えていた! 英国記者の視点

公開 : 2025.01.10 18:05

ポールスターのシャシー担当責任者に、EVがどのように開発されているかを聞いたところ意外な答えが返ってきた。スウェーデンブランド最新モデルの走りに三菱のラリーカーが影響を与えていたのだ。

「本物」を追求 スウェーデン名物ミートボールを例に…

クルマを試乗・評価するロードテスターは、各国のステレオタイプを避けるよう常に注意を払うべきだ。ドイツ車は本質的に効率的で頑丈、イタリア車は情熱的で派手、フランス車は時折突発的にストライキを起こす傾向がある、といった擬人化された話は、皆さんもご存じだろう。

しかし、時には共有しなければならないこともある。ポールスターの電動クロスオーバー「3」と「4」の英国での発表イベントの後、筆者は同社のシャシー開発責任者であり、熱狂的なクルマ愛好家であるヨアキム・リドホルム氏ととても楽しい会話を交わした。後で説明するが、「ミートボール」の話題を持ち出したのは彼だ。

ポールスターは「本物」らしい運転感覚を追求する中で、三菱のラリーカーに影響を受けたようだ。
ポールスターは「本物」らしい運転感覚を追求する中で、三菱ラリーカーに影響を受けたようだ。    AUTOCAR

スウェーデン出身のリドホルム氏は陽気な人物だ。彼の満面の笑顔と明るい人柄は常に変わらない。そして、彼が手がけたクルマに対して情熱を傾けている様子を見ているだけで、そのクルマを運転してみたくなる。

おそらく、彼のような人物がポジティブな雰囲気を醸成するだけで、自動車評論家による評価がわずかではあるが確実に上昇する。こういう経験をしたことのない自動車メーカーは、この地球上に存在しないだろう。

リドホルム氏に競合他社の製品についてコメントしてもらうよう頼んだことで、筆者は彼の変なスイッチを押してしまったかもしれない(どの製品かは言わないが、たぶん分かるはずだ)。

画期的な性能を持つ新型EVについて、どのように考えているのか? リドホルム氏はしばらく考え込み、コメントを避けるべきかどうか迷っているかのように空を見上げ、そして一捻り加えた婉曲的な答え方をした。

「ミートボールを注文したのに、期待外れの小さなミートボールが出てきたことはないだろうか? 小さな小さなミートボールだ。ベジタリアン向けのものもあると思う」

「スウェーデンのミートボールは大きい。そして、ほとんどの場合、肉から作られている。あのクルマ(競合の製品)を見ると、わたしはそれを思い出す。あのクルマが非常に高い評価を受けていることは知っているが、どこか本物らしくない。EVが、ミートボールではない奇妙な小さな何かを装っているような感じだ」

「確かに、既存の『ワクワクする運転とはこういうものだ』という先入観を最大限に活かして、このようなクルマを作ることはできる。しかし、わたしは新しいモードやフィーリングを追求することに専念したい。つまり、進歩的であり、新しい境地を開拓することだ」

実際、リドホルム氏はフィーリングを重視しており、性能やボディコントロール、吸盤のようなグリップを目的としているわけではない。

「我々がクルマのチューニングで重視しているのは、ダイナミックな違いを実感できるようにすることだ」と彼は言う。

「80~120km/hの現実的な速度域に注目している。その速度域で顕著な利点が得られるよう、ハードウェアとキャリブレーションに取り組んでいる」

ポールスター3のリアモーターに搭載された機械式トルクベクタリングディファレンシャルは、その好例であると彼は説明する。重量と摩擦が生じるため、一部のメーカーではEVへの採用を避けるような技術であるが、同時にチューニングの可能性も広げるものだ。

「わたしは、体感できる違いを求めていた。3の走行モードを『パフォーマンス』に設定すると、通常の高速道路の速度でステアリングを少しずつ動かす程度でも、クラッチが実際にトルクを外側の後輪にベクタリングする」

「このクルマで高速カーブを駆け抜け、加速しながら旋回すると、クルマが自らステアリングを切っているような感覚になる」

「EVはこうした変革的なトルクを与えてくれるが、それをどのように使うかによって、ドライバーの関与という点で次のレベルに到達できるだろう」と彼は続けた。

「ベクタリングは、その大きな要素の1つとなるだろう。わたしは三菱(ランサー)エボリューションXのラリーカーを所有しているが、競技用ハンドブレーキを引くたびにセンターデフが解除され、後輪をより効果的にロックできるようになっている」

「この場合、正トルクから反トルクへの急激な、制御された切り替えがクルマのハンドリングに劇的な効果をもたらすのだが、その可能性は明らかだ。わたしはこのクルマを運転するのが大好きなんだ」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事