「趣味をありのままの自分で楽しむ」 英国のゲイ・バイカーズ・モーターサイクル・クラブ 必要とされる理由とは

公開 : 2025.01.15 18:05

英国のゲイ・バイカーズ・モーターサイクル・クラブは1977年に設立された、同性愛のバイク好きが集まるクラブ。ある会員は「自分らしくいられる唯一の場所」だと語る。

神経をすり減らす必要のない場所

「愛する趣味を、ありのままの自分でいられる安全な環境で楽しむことが大切」と、ゲイ・バイカーズ・モーターサイクル・クラブ(GBMCC)の会長ケビン・バゼリーさんは言う。

GBMCCは1977年に設立された。イングランドとウェールズで1967年に性犯罪法が制定され、同性愛が合法化されてからわずか10年後のことだった。ただし、同意できる年齢は異性愛よりも高かった(この矛盾は2001年まで修正されなかった)。

ゲイ・バイカーズ・モーターサイクル・クラブ(GBMCC)
ゲイ・バイカーズ・モーターサイクル・クラブ(GBMCC)    AUTOCAR

これに80年代と90年代のエイズ危機、そして一部の英国メディアによる容赦ない報道が加わったことで、多くのゲイの人々がカミングアウトせず、このGBMCCのようなコミュニティがいかに重要であったかが分かる。そして、それは今も変わらない。「当クラブの会員の多くにとって、ここはカミングアウトできる唯一の場所なのです」とバゼリーさんは言う。

「彼らはプライベートではカミングアウトしておらず、クラブで過ごすことが自分らしくいられる唯一の機会なのです。これは特に年配の会員に当てはまることですが、若い会員でも、日常生活では必ずしも歓迎される環境にあるとは限りません」

GBMCCに入会すると、近場の短距離走行から英国各地へのロングツーリングまで、さまざまなグループツーリングの機会が得られる。また、欧州各国の同様のクラブと連携した夏の大型キャンプもある。

ゲイ・バイカーズはLGBTQ+の「プライド・イベント」にも参加しており、毎年夏に開催されるロンドン・パレードの目玉となっている。同クラブには500人以上の会員がおり、英国の4つの国々(および少数の海外在住者)に及ぶ、LGBTQ+の幅広い層をカバーしている。ストレートの支援者にも参加を広く呼びかけている。

「若い会員を見つけるのが問題です」と、BMW K1600 GTスポーツに乗る57歳のバズリーさんは言う。

「バイクはもはやかつてのような安上がりな趣味ではなくなりました。保険料だけでも大きな負担となります。我がクラブでも、そのような理由でバイクを諦めざるを得なかった熟年会員がいます。社会は以前よりずっと寛容になりましたが、クラブを必要とするライダーのために、これからもずっと活動を続けていくつもりです。このようなクラブには精神衛生上のメリットがたくさんあります。わたし達は互いに支え合う友人の集まりなのです」

人にはコミュニティが必要だ

しかし、中心となるのは依然としてバイクである。

「皆さんが思うほど頻繁ではないにしても、長年にわたって恋愛が芽生えてきましたよ」と、GBMCCの会計担当スティーブン・ブラートンさん(60歳)は明かす。ブラートン氏もまたBMWの愛好家であり、現在6台目のGSに乗っている。

「共通の趣味を通じて友人を作ることが大切です。今週末ここに来るために、わたしは445kmも旅をしてきました。その旅も楽しみの一部です。家で座ってテレビドラマを観ているのではなく、外に出るのです。社会的な孤立は、現代の誰もが抱える問題です。コビッドのときには、イベントを行っていなかったにもかかわらず、会員数は増加しました。人はいつだってコミュニティを必要としています」

ショーン・マカリスターさん(34歳)はホンダCB650Rに乗っており、コビッドの規制が緩和され始めた頃にGBMCCに入会した。

「免許を取ったばかりでしたが、一緒に走る仲間がいませんでした」とマカリスターさん。

「こういうクラブに入会すれば、障壁が1つ減り、新人ライダーとして疎外感を感じることも減ると思ったんです。わたしはそれほど経験豊富ではなかったので、地元の担当者が、最初のイベントでは彼の後ろについて、バイクの位置取りを真似するよう勧めてくれました」

マカリスターさんはそれ以来、数多くのイベントに参加し、イングランド南部を自らルートを決めてリードしたこともある。その1つは、シルバーストーン近くのライダーの憩いの場であるスーパー・ソーセージ・カフェを中心としたものだった。

「バイクはかなりマッチョなものと見られがちです」と彼は続ける。

「そのような伝統的なグループでカミングアウトしなければならないのは、神経をすり減らすものでしょう。そうしたプロセスを経る必要のない環境にいられるのは、とても魅力的です。このクラブにはいろいろなタイプの人がいますが、わたしは素晴らしい友人たちを得ることができました」

イアン・セントジョンさん(44歳)も同じように親近感を求めていた。「2017年から会員です。父が亡くなり、バイクを譲り受けました。それまではバイクに乗ろうと思ったことはなかったのですが、免許を取り、ネットでこのようなクラブを探して、ここにたどり着きました。ここは、自分にぴったりだと思える場所です」

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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