ポルシェ911GT3 vs ケイマンGTS vs 911カレラGTS

公開 : 2015.02.10 23:50  更新 : 2017.05.29 19:32

GT3専用にチューンされたエンジンがもたらすのは、なにも回転の気持ちよさだけではない。レスポンスは一級の日本刀を彷彿とさせるほどシャープ。4000〜6000rpmにおけるタコメーターのニードルの動きも、目で追うのが難しいほどである。

本来の911ならば、回転を合わせることが難しいところではあったけれど、そこはPDK。スパッと望んだギアにつなげてくれる。柔和な印象のともなうGTSの3.8ℓユニットと比べると、それはもう ’業務用’ のカテゴリーである。

もちろん、とんでもなく速い。たとえば2速で8000rpmまで一気に引っ張ってみたとする。おそらく追従できるクルマの方が少ないはずだ。免許の心配さえおいておけば、これ以上にない胸のすくような快感を味わうことができる。依存性に注意、である。

911GTSももちろん速い。速い911であるということはつまり、速いスポーツカーなのである。低回転域から高回転域に至るまで、無茶をしているという雰囲気はまったくない。平然としていて、なおかつとびっきり速いのだ。

ただし、GT3の315ps/トンというパワー・ウエイト・レシオとGTSの287ps/トンという値の差は、どの速度域でもつきまとう。同じくらいのアクセル・ペダルの踏力でも、やはりGT3の方が推進力は高いのだ。フォード・フォーカスRSとSTとの違い以上に差は大きい。

”それがどうした?” と、お思いの読者もいるかもしれない。たしかにそうだ。GTSでさえ430psを叩き出すのだから、そう考えるのは無理もない。GT3の£100,540(1,816万円)とGTSの£91,098(1,645万円)という価格差に生じる45psという差をどう見るかは、もはや読者次第である。

これに対して340psのケイマンGTSはジャイアント・キラーではないものの、少なくとも瞬発力はかなりのもの。911GTSよりも低い回転域から最大トルクを発揮できるため、力強さはむしろGT3に近いと感じた。

事実、6500rpmよりうえでは精彩を欠く結果となったものの、ミドル・レンジでの豊富なトルク供給には大いに満足できる。また九十九折を前回で攻め込んだ際にはミドゆえのフットワークの軽さを披露してくれる。コーナー脱出後の修正舵も比較的簡単にこなすことができる。

したがって、合計1200psをゆうに上回る ’ポルシェ・パレード’ でも、ケイマンだけが置いてけぼりをくらうこともまったくなかった。

なにより印象的なのは、路面状況に対してぴったりと寄り添うように設定された出力が、至上の楽しさを生むという点。時にはタイヤを空転させながら過剰なパフォーマンスを楽しむのもいいけれど、適材適所ということばがあるように、それぞれにそれぞれの ’居場所’ というものがあるのだ。

これみよがしな演出や、複雑怪奇なアピールなどはまるでなく、すでに上等なお米をこだわりの釜や美味しい水で炊いたような、つまり旨味を最大限に引き出すことの模範解答のようなクルマである。すべての要素がこれほど有機的に結びついているくるクルマはあまりない。

自分の体の一部のように思うままに鼻先を変えることができ、また豊富なグリップのおかげで水に覆われたエイペックスにも果敢に飛び込むことができる。軽く活発で、驚くほど鮮やかな色彩に満ちている。

911に比べるとソフトな方向に仕立てられたサスペンションのおかげでコントロールも非常にしやすい。よって荷重移動も驚くほど簡単である。

言い換えると、リアに荷重を残しすぎたままコーナーに入ったり、あるいは操舵のタイミングをミスしてしまうとすぐにその報復を受けることになる。要するに、正直にミスしたことを受け入れざるをえないのだ。

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