911 ダカールのフォード流解釈 マスタング・マッハE ラリーへ試乗 車高と一緒に楽しさプラス

公開 : 2025.01.28 19:05

グラベルでの安定したドリフト 電費は優れず

電動ホットハッチヒョンデアイオニック5 Nほどの、ゲームチェンジャーではないかもしれない。とはいえ、これならグラベルへ思い切り飛び込める。

小石が露出したぬかるんだ路面にも、マッハE ラリーはまったく動じない。むしろ、そんな環境で真価は発揮される。安定したドリフトを誘うのは、極めて簡単。それでいて、後輪駆動のように自然に操れる。

フォード・マスタング・マッハE ラリー(英国仕様)
フォードマスタング・マッハE ラリー(英国仕様)

シングルモーターの後輪駆動版マスタング・マッハEでも、ドリフトに興じれる。しかし、フロントタイヤを受け持つ2基目のモーターは、効果的に姿勢を安定。直線が見えスライド量を戻したい場面では、フロントタイヤがボディを引っ張ってくれる。

ソフトウエアの制御が、若干おぼつかない瞬間は感取される。しかし、ノーマルのマッハE GTより気にならなかった。

新たに得た能力を、実際にどこまで発揮できるかは、暮らしている地域で変わる。アスファルトしか走らないドライバーなら、より安価なアイオニック5 Nの方が充足感は高いはず。そもそも、マスタング・マッハEは技術的に少し旧世代感が拭えない。

駆動用バッテリーの容量は91.0kWhと大きいが、電費は今回の平均で3.8km/kWhと、カタログ値を大きく下回った。気温は氷点下に近かったとはいえ。同じ日に試乗した韓国のSUV、ジェネシスG80は、5.4km/kWhを得られている。

現実的な航続距離は、350kmほど。急速充電は最大150kWと、最速の部類ではない。

電動クロスオーバーにユニークさとカラフルさ

ちなみに、試乗車にはハンズオフ運転を叶える自律運転システム、「ブルークルーズ」機能が実装されていた。高度なアダプティブ・クルーズコントロールと車線維持支援が融合したようなものだが、良好に動作していた。

ただし、自動での車線変更には対応していない。運転中、ステアリングホイールを握らない腕が、手持ち無沙汰だったことも確かだ。

フォード・マスタング・マッハE ラリー(英国仕様)
フォード・マスタング・マッハE ラリー(英国仕様)

マッハE ラリーは、必ずしも必要なモデルではないかもしれない。しかし、フォードの作るという判断は、素晴らしいものだと思う。面白みに欠ける同クラスの電動クロスオーバーに、ユニークさとカラフルさをもたらしてくれた。

オプションに留め、リスクを比較的低く抑えつつ、走りの楽しいモデルを完成させている。911 ダカールやウラカン・ステラートと同じく、オフロードとの親和性を高めつつ、オンロード能力も向上している。同社のユーモアセンスが、如実に現れている。

フォード・マスタング・マッハE ラリー(英国仕様)のスペック

英国価格:7万6790ポンド(約1497万円)
全長:4712mm(標準マッハE)
全幅:1881mm(標準マッハE)
全高:1597mm(標準マッハE)
最高速度:199km/h
0-100km/h加速:3.6秒
航続距離:508km
電費:4.6km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2343kg
パワートレイン:ツイン永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:91.0kWh
急速充電能力:150kW
最高出力:486ps
最大トルク:87.4kg-m
ギアボックス:1速リダクション(四輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    役職:ロードテスター
    ベルギー出身。AUTOCARのロードテスターとして、小型車からスーパーカーまであらゆるクルマを運転し、レビューや比較テストを執筆する。いつも巻尺を振り回し、徹底的な調査を行う。クルマの真価を見極め、他人が見逃すような欠点を見つけることも得意だ。自動車業界関連の出版物の編集経験を経て、2021年に AUTOCAR に移籍。これまで運転した中で最高のクルマは、つい最近までトヨタGR86だったが、今はE28世代のBMW M5に惚れている。
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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