【大統領就任式でEV義務化を撤回】トランプ政権発足で『EVシフト沈静化』は本当か?

公開 : 2025.01.22 11:45

EVシフトは事実上、沈静化か?

このように、アメリカ自動車産業の現状を改めて確認してみると、トランプ大統領が言う『EVの義務化の撤回』は、あくまでも市場の実状にあった軌道修正の範疇に収まっているように感じる。EVシフトといっても、結局は市場変化を先取りしたいアーリーアダプターによるテスラ・ブランド人気が主体であり、そうしたコア層から一般層へのEVシフトは起こらなかった。

また、バイデン政権のEV等に関する大統領令、さらに電動車等の生産をアメリカ国内に義務付けるIRA(インフレ抑制法)については事実上、中国を強く意識した政治的な判断という側面がある。つまり、単純にEVの技術が進化して、ユーザーにとっての利便性が上がることがEVシフトに結びつくとは言い切れないのだ。

アメリカにおけるEVシフトは、社会の実状を十分に考慮した形で段階的に進むものと考えられる。
アメリカにおけるEVシフトは、社会の実状を十分に考慮した形で段階的に進むものと考えられる。    フォード

また、トランプ第二次政権では大統領就任式に合わせて、パリ協定からの離脱も発表している。これにより、アメリカにおけるエネルギーミックスにも変化が生じるだろうし、またEVシフトに対する自動車メーカー各社の事業戦略も修正されていくことだろう。

結果的に、アメリカにおけるEVシフトは、社会の実状を十分に考慮した形で今後、段階的に進むものと考えられる。言い方を変えれば、アメリカでのEVシフトは沈静化するだろう。

欧州グリーンディール政策の政策パッケージ『フィットフォー55』における、電動車の達成目標の修正、また中国でのBYDに見られるようなEV主体からレンジエクステンダー重視の市場構造変化などもあり、世界的にEVシフトは当面、沈静化するように感じる。

ただし、繰り返すが、EVシフトは政治案件の側面があるため、大国同士の政治・経済政策における駆け引きの道具として、いきなり注目される場面が出てくるかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    桃田健史

    Kenji Momota

    過去40数年間の飛行機移動距離はざっと世界150周。量産車の企画/開発/実験/マーケティングなど様々な実務を経験。モータースポーツ領域でもアメリカを拠点に長年活動。昔は愛車のフルサイズピックトラックで1日1600㎞移動は当たり前だったが最近は長距離だと腰が痛く……。将来は80年代に取得した双発飛行機免許使って「空飛ぶクルマ」で移動?
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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