究極のW198型 メルセデス・ベンツ300SL ライトウエイト(2) 核心はボディ内にアリ
公開 : 2025.02.22 17:46
驚くほど普通のメルセデス・ベンツ
アクセルペダルは、ブレーキペダルより奥にある。3枚の間隔は狭い。サイドウインドウの下端から、ドアが外側へ膨らんでいるのを周辺視野で感じる。フロントフェンダーが視線の先へ伸びた、前方視界は印象的だ。
新車当時、300SLをUFOのようだと表現する人がいた。確かに、その頃の宇宙船ぽい。

発進させて数kmで、至って普通のメルセデス・ベンツ的なことを知り驚く。路面の凹凸を拾いボディは振動するものの、エンジンはトルクフルで、1951年のW186型300 アデナウア・サルーンのように市街地を走れる。
トランスミッションは4速。変速時にギアの回転数を調整するシンクロメッシュが、全段に備わる。アイドリングも洗練されている。低速域での上質さと扱いやすさでは、同時代のフェラーリやマセラティとの差が歴然だ。
高速域では、ライトウエイトは一層別格。0-97km/h加速は8.8秒と、スチールボディのW198型300SLと大差ないものの、走りはよりシリアスといえる。
3.0L直6エンジンは、高域までリニアさが衰えず、当然のように高出力を召喚できる。サウンドも聴きごたえはあるが、ジョアッキーノ・コロンボ氏が設計した、フェラーリのV型12気筒「コロンボ・ユニット」のドラマチックさとはかけ離れてもいる。
1955年生まれの御年を忘れるほど、高速で運転しやすく、コーナリングも印象的。車高は低く、車重は軽く、シャシーは充分に強固。路面が軽く波打ったワインディングを、感動の落ち着きでこなしていく。
究極のW198型 その核心はボディ内にアリ
スイングアクスルが軽く暴れたのは、1度だけ。通常の300SLでは、これが運転上の癖といえたが、ライトウエイトでは明らかになだめられている。より積極的なドライバーなら、本来の特性をつまびらかにできそうだ。
プラスティック製のステアリングホイールは、リムが太い。レースを前提としたモデルとしては、変速も異例なほど難しくない。

アルミ製のボディへ話題が集まりがちだが、300SL ライトウエイトで特筆すべきは、それ以外の部分にあるといえるだろう。チューニングを受けた直6エンジンと、アップグレードされたフロントブレーキ、サスペンションなどだ。
その多くは、プロトタイプレーサーのW194型300SL譲り。公道用モデルのパッケージオプションとして提供されたこれらが、本当の違いを生んでいる。
1955年8月に作られた、スチール製ボディのワークスラリーマシン、「スポーツアベイラブルンク」も、ほぼ同じ仕様にあった。伝説のドライバー、スターリング・モス氏がツールド・フランス・オートモービルで優勝するなど、幾つもの栄光を残している。
300SL ライトウエイトは、究極のW198型と呼べることは間違いない。だが、その核心にあるのは、表面的な部分ではない。
協力:ドイツ・フランクフルト国立自動車博物館、Lohコレクション
メルセデス・ベンツ300SL ライトウエイト(1955〜1956年/北米仕様)のスペック
英国価格:3075ポンド(新車時)/1000万ポンド(約19億5000万円/現在)以下
生産数:29台
全長:4572mm
全幅:1791mm
全高:1302mm
最高速度:249km/h
0-97km/h加速:8.8秒
燃費:7.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1134kg
パワートレイン:直列6気筒2996cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:240ps/6100rpm
最大トルク:29.9kg-m/4800rpm
ギアボックス:4速マニュアル(後輪駆動)
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