小さなボディに秘めた6気筒の名声 ライレーMPH(2) 魅惑的な戦前のスポーツカー

公開 : 2025.02.23 17:46

90年も前のクルマだと忘れる走り

イグニッションをオンにし、スターターボタンを押すと、6気筒エンジンが始動。プリセレクター用のレバーは、ステアリングコラムから伸びているが、同時期の多くの例とは異なり扱いやすい。

発進・停止時には、クラッチのかわりになる、エンゲージメント・ペダルを踏み込む必要がある。しかし走行時は、このペダルをひと押しするだけで、予めレバーで選んだギアへ切り替わる。お借りしたショートサーキットでは、このメカの効果を実感できる。

ライレーMPH(1934〜1935年/英国仕様)
ライレーMPH(1934〜1935年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

次のギアを事前に選べるため、ステアリングホイールの操作へ集中できる。左足でエンゲージメント・ペダルを傾けるだけで、即座に変速は終わる。遊星ギアを用いたものだが、戦前のデュアルクラッチATと呼べそうだ。

ギア比はショートで、加速はかなり意欲的。2500rpmから3500rpmの間には、豊かなトルクの山がある。エンジンは滑らかに回転し、排気音は洗練され心地良い。ブレーキも不安なく利く。

大きなステアリングホイールは胸元にあり、脇を開いて回す必要がある。ハイレシオで、走行中でもそれなりに力が求められる。しかし、細身のフロントタイヤは不満ないグリップ力を備え、速度上昇とともにテールが穏やかにスライドし始める。

乗り心地はやや硬め。姿勢制御は素晴らしい。カーブが連続する区間を、100km/h近いペースで駆け回れる。90年も前のクルマだということを、忘れそうになる。

レースで勝利を重ねた6気筒エンジンの名声

現在でも、ライレー・ナイン・インプの方がより軽く運転しやすく、取引価格もそこまで高くないことには変わりない。MPHは、タイミングを間違った、望まれないクルマだったのかもしれない。

それでもクラス最高峰のモデルを提供したいという、創業者の1人、ビクター・ライリー氏の情熱が見事に体現されている。レースで勝利を重ねた6気筒エンジンの名声が、この小さく美しいボディにも宿っている。

ライレーMPH(1934〜1935年/英国仕様)
ライレーMPH(1934〜1935年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

協力:ブルー・ダイヤモンド・ライレー・サービス社、ライレー・カーズ・アーカイブ・ヘリテージ・トラスト、ロビン・キャメロン著「ライレーMPH」

ライレーMPH(1934〜1935年/英国仕様)のスペック

英国価格:550ポンド(新車時)/75万ポンド(約1億4625万円/現在)以下
生産数:15台
全長:3657mm
全幅:1447mm
全高:1066mm
最高速度:140km/h
0-97km/h加速:−秒
燃費:8.5-11.7km/L(予想)
CO2排出量:−g/km
車両重量:916kg
パワートレイン:直列6気筒1726cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:56ps/4800rpm
最大トルク:−kg-m
ギアボックス:4速プリセレクター・マニュアル(後輪駆動)

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ライレーMPHの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

コメント

おすすめ記事

 
×