【受注一時中止はなぜ起こったか】ジムニー・ノマドに見る、自動車産業界基本構造と商流の問題点
公開 : 2025.02.06 11:15 更新 : 2025.02.06 14:58
受注が約5万台と殺到し、発表からわずか4日後に受注一時中止となった5ドアモデル『スズキ・ジムニー・ノマド』。なぜこうした事態を想定できなかったのか、また、自動車産業界が抱える商流の問題点などを、桃田健史が分析します。
なぜ、こうした事態を想定できなかったか
やはり、そうなったか。スズキが2025年2月3日にニュースリリースした、『新型ジムニー ノマドご注文中止のお詫び』に対して、メディア、販売店、そしてユーザーの多くがそう思ったに違いない。
このリリース発信の4日前、都内で開催された記者会見で、月間販売目標台数1200台と発表されたことで「また長納期になるな」と感じた人が少なくなかったからだ。長納期どころか、一気に約5万台の受注となり、このままの生産計画では最悪『4年待ち』という事態で、あえなく受注一時中止という事態となった。

また、会見の中で国内営業部門が強調していた、全国各地のショッピングモールでの先行展示会も中止となった。すべての計画が大きく狂ってしまったのだ。これを、スズキにとっての単なる『嬉しい悲鳴』と受け流してよいとは、ユーザーも販売店も到底思わないはずだ。それどころか『なぜ、こうした事態に陥ることを想定できなかったのか!?』と、憤りを感じるだろう。
今回の件、その背景について考えてみたい。大きく3つの要因があると、筆者は見ている。ひとつ目は、ジムニー・シリーズのポジショニングに対する見解の甘さだ。会見の中で、『開発ターゲット』という項目として、ターゲットユーザー層の考え方を示した。
それによると、ジムニーとジムニー・シエラの開発ターゲットを『ジムニーの性能を最大限に活用するプロユースのお客様』と位置付けた。その上で、ジムニー・ノマドについては『ジムニーの性能を日常生活で必要とするお客様』とした。さらに、これらを含めた大きな括りとして、『ジムニーの性能への憧れがあるお客様』と説明したのだ。これでは、日本市場におけるジムニー市場の現状把握として不十分だと感じる。
プロユース、ファミリーユースという単純図式ではない
筆者は現行4代目ジムニーが誕生した2018年、自身もジムニー・オーナーになることで、ジムニー日本市場の実態を詳しく調べた経験がある。その際、ジムニーの商品性が3代目までと大きく変わったと感じた。
デザインとしては、3代目がSUVライクなイメージとなったものの、高速道路でのハンドリングで3代目と4代目を比較すると、圧倒的な差を感じたからだ。つまり、4代目は見た目も走りも、日常的に使える(軽自動車及び登録車の)コンパクトSUVになったと言える。

さらに、2010年代後半から2020年代のコロナ禍に向けて、若い世代だけではなくシニアを含めた広い世代で『新しいライフスタイル』という概念が広がり、4代目ジムニーは『新しいライフスタイルのアイテムのひとつ』として定番化した。
こうした市場動向を踏まえると、前述したスズキが描く『開発ターゲット』は少なくとも日本市場には上手くあてはまらない印象がある。そのため、ジムニー・ノマドに対する市場予測が大きく外れたのではないだろうか。
会見の際も、『ジムニー=プロユース』がベースで、そこからの『ファミリーユース』という発言が目立った。これに対して、筆者を含めて多くのメディアが違和感を覚えたと思う。
ふたつ目の要因は、国内における生産、販売戦略の甘さだ。ジムニー5ドア化については、4代目登場当時から日本のみならず、グローバル市場からの要望としてスズキ本社にあがっていた。だが、当初生産は日本のみであったため、日本固有の軽自動車規格であるジムニーと、輸出モデルとしてのジムニーであり日本ではジムニー・シエラと呼ぶ登録車のバックオーダーが、スズキの当初予想を超えて広がった。
コメント