フェラーリF12ベルリネッタ

公開 : 2012.07.31 16:12  更新 : 2017.05.29 18:53

■どんなクルマ?

フェラーリF12は、世界で最も伝説を持つスーパーカー・コンストラクターの手によって造りだされた、公道で最も最速であり最も最強のスポーツカーだ。599GTBのそれよりも119bhp上がったパワーは、フェラーリ史上最も強力なものであり、それと同時に重さは60kgも少なくなった。

とは言え、そのパワーに注目しなければ、F12ベルリネッタはトラディショナルなスポーツカーである。それはちょうど2人のためのスペースをボディ中央に持ち、その長いノーズの下に伝統のノーマル・アスピレーションのV12を搭載するという、ほぼ半世紀前の275GTBと同じレイアウトを持つからだ。

しかし、その旧いベルリネッタと同じように、それを支配するのはそのエンジンである。ブレーキを冷却するためのダクトや、ダウンフォースを生み出すためにのエアロダイナミクスに優れたボディなどは、確かに半世紀前とは異なっているが、やはりそのエンジンに注目が行く。

それは6.3リッター少々のエンジン・キャパシティから730bhp/8250rpmのパワーを生み出す。それは599GTOと較べても39bhp、直近のライバルであるランボルギーニアヴェンタドールと較べても70bhp大きい。100万ポンド以上するブガッティ・ヴェイロンに比べればそのパワーは小さいと感じるだろうが、987bhpのヴェイロンが2トン以上あることを考えると、F12ベルリネッタの448bhp/トンというパワー・ウエイト・レシオは、ヴェイロンに勝るとも劣らない。

しかも、そのプライスは239,736ポンド(2,940万円)と、599GTBの27,640ポンド(3,400万円)よりもBMW 320d SEが1台買えるほど安くなった。とはいうものの、代表的な顧客が選ぶオプションを含めると、おおよそ250,000万ポンド(3,070万円)ぐらいの価格が一般的な数値となるだろう。

■どんな感じ?

エンジンを別にすれば、最も大きなニュースはそのボディ・ディメンジョンにある。重さ自体は599GTBよりも軽くはないのだが、サイズは明らかに小さい。長さ、幅、ホイールベール、高さどれをとってもダウンサイジングされているのだ。とはいうものの、そのボディ・サイズが小さくなったことで、FV12の雄叫びを恐怖に感じることはない。

そのパフォーマンスは0-100km、0-200km/hの加速タイムはマクラーレンF-1おりも速い。更に、その加速は、デュアル・クラッチ・ギアボックスによって行われるため、まさにシームレスな感覚だ。レブカウンターの針は、8000rpmを超え8700rpmのレブ・リミットに近づいていくが、その回転は鈍ることがなく、まるでどこまでも回っていくような感覚がある。

そのパワーをどのように利用するかが問題かもしれない。しかし、ドライバーはフロントに積まれる730bhpnV12エンジンのパワーを、リア・ホイールに伝えることだけを考えれば良いのだ。

フェラーリはここで驚くべき仕事をしている。というのも、46/54という若干リア・ヘヴィな重量配分を、一新されたサスペンション、フェラーリEデフ、そして専用のチューニングがされたミシュランピレリ、あるいはブリヂストン・タイヤをして確実にそのパワーを余すところなく路面に伝えてくれるのだ。

もちろん、全ての電子制御をカットオフすることも可能だが、リア・ビュー・ミラーに映る2本の黒いタイヤ痕を見れば、その電子制御装置がクリーンにリア・ホイールにパワーを伝えてくれているということが確認できるはずだ。

コーナーでの話となるとまた別問題だ。ワインディング・ロードやサーキットでも、V12のパワーがあまりに強大なので、そのドライビングはイージーとはいかない。しかし、マネッティーノ・コントロールをスポーツまたはレースにすれば、クルマ自体が非常に良くドライビング・パフォーマンスをサポートしてくれるため、その野獣のような性格をわすれてコントロールすることができる。

しかし、一旦電子制御装置をオフにしていまうと、ターンインではアンダーステア、そしてターンアウトではオーバーステアが顔を出すこととなり、特に初めてのそのままの状態でコーナーに侵入するとおおきな戸惑いを覚えることとなる。

また、ステアリングも、その動揺を大きくする原因となっている。フェラーリは、ホイールベースを短くするだけでなく、ステアリング・ラックのスピードもクイックにした。それは、少なくとも私は大きな間違いだったと感じる。確かに、クイックなステアリングは、スポーツ・ドライビングを演出するには良い方法かもしれないが、それがかえってドライビングが難しいクルマに仕立て上げてしまっているような気がしてならない。特に、背後が不安点になった状態では、よりドライバーのステアリング捌きに精度を要求することになりかねないからだ。

その操縦性を導き出すシャシーが誠実でレベルが高いということは、F12ベルリネッタの良い知らせだ。そして、リニアなスロットル・レスポンスを持つエンジンがそれを更に助けてくれる。そのスロットル・レスポンスは反応も良く、しかも正確だから、意味なく大きなパワーを与えてしまったり、といったようなこともない。

われわれはF12ベルリネッタがデュアル・パーパスなクルマであるということも忘れてはならないだろう。スポーツカーとしてピュアな458でもなければ、GT的意味合いが強いFFでもないが、F12ベルリネッタはスポーツ一辺倒ではなく、高速クルージングもその重要な役割としてもっている。凹凸の激しい路面では、マネッティーノ・コントロールを”パンピー・ロード”にセットすれば、十分ソフトな乗り心地を提供してくれるのだ。更に、730bhpのV12は、アウトストラーダで130km/h程度で巡行している間は、非常に静かなパワー・ユニットであった。

ちなみに、そのキャビン・スペースは、パッセンジャーが十分に足を伸ばして乗ることができるだけの広さがあり、トランク・スペースも絶対的には貧しいものの、シート後ろのスペースも利用するのであれば、BMW 7シリーズと同じだけの荷物を積むことが可能だ。インテリアは、その対価を考えると、プラスティッキーであり、平凡なスタイルであり、印象的とは言えるものではなかった。

■「買い」か?

あなたが239,736ポンド(2,940万円)を用意ができ、トラディショナルなV12フェラーリが欲しいと考えるのであれば、ディーラーのオーダー・リストに名を連ねるべきだろう。但し、そのステアリングに関しては、模範的でないということを考えにいれなくてはならない。

F12ベルリネッタが疑う余地もなく、現在まで最も早いフェラーリであることは間違いない。但し、最も刺激的なフェラーリかと言えばそうではない。最も刺激的なフェラーリは未だにF40であるからだ。

とは言え、F12ベルリネッタは、毎日使うことができ(所有者の20%がそうした使い方をするらしい)、荷物を積んだ長旅をすることができるフェラーリであるということを忘れてはならない。ヴェイロンはF12ベルリネッタの4倍も高価だが、全く実用的ではなく、ファン・トゥ・ドライブでもない。アヴェンタドールは、エンジンは少なくとも主観的にはフェラーリよりも刺激的だが、収納力のなさやギアボックスの不出来などに失望するはすだ。マクラーレンは、そのとろけるような加速は魅力であるが、レクリエーションのためだけのオモチャという意味合いは強い。

その一方で、F12ベルリネッタは、立派なワーキング・ツールとしても成立していることが大きな魅力なのである。

(アンドリュー・フランケル)

フェラーリF12ベルリネッタ

価格 239,736ポンド(2,940万円)
最高速度 340km/h
0-100km/h加速 3.1秒
燃費 6.7km/l
Co2排出量 350g/km
乾燥重量 1630kg
エンジン V12 6262cc
最高出力 730bhp/8500rpm
最大トルク 61.9kg-m/6000rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

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