半導体大手がクルマに突然関心を抱く理由 未来を形作る米Nvidiaの車載コンピューター

公開 : 2025.02.26 18:25

時価総額490兆円を超える巨大企業Nvidiaが今、自動車業界に目を向けている。同社の新しい車載コンピューターが、クルマの未来を変えるかもしれない。

ハイテク化する自動車業界にチャンス見出す

ITの世界や株式市場に少しでも関心があれば、Nvidiaという名前を耳にしたことがあるだろう。

もし聞き覚えがなくても、米国の大手IT企業のハードウェアやソフトウェアを何らかの形で採用している自動車メーカー、例えばテスラボルボメルセデス・ベンツ、JLR 、BYDヒョンデなどについてはご存知のはずだ。

Nvidiaのハードウェアは、大手自動車メーカー数社によって採用されている。
Nvidiaのハードウェアは、大手自動車メーカー数社によって採用されている。    Nvidia

平たく言うと、今後はTOPS(1秒間に1兆回の演算処理能力、コンピューターがデータを処理する速度の指標)が、「ps」や「km/l」と同じくらいクルマにとって重要な要素となるかもしれない。Nvidiaは自動車業界の主要プレーヤーとして台頭しつつあり、新興分野においては支配的な存在となっている。無視することはできない。

自動運転車には膨大な処理能力が求められることから、自動車産業はNvidiaにとって非常に大きなビジネスになりつつある。関連サービスを含めると、年間約50億ドル(約7500億円)規模にもなる。

しかし、ラスベガスで開催された技術見本市CESで、同社の自動車部門担当副社長兼ゼネラルマネージャーのアリ・カニ氏が筆者に語ったところによると、現在の市場ではレベル2(半自動運転)の機能を搭載しているのは「10%以下」だという。

Nvidiaは1993年に設立され、PCやゲーム機のグラフィックを向上させるグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)を開発した。

そして、膨大な3Dデータを処理するGPUは、人工知能(AI)に必要な高度なコンピューティングにも非常に適していることが判明した。AIはNvidiaが現在得意とする分野である。

だからこそ、同社の株価はここ数年で急騰し、現在では3兆3000億ドル(約495兆円)の価値がある。そう、兆だ。

自動運転車に必要なAI

Nvidiaの自動車業界への参入はほとんど偶然と言えるものだった。当初の顧客であるアウディが、インフォテインメント・システム用に同社の製品を採用したのだ。

「車載スクリーンには大量のグラフィックが必要で、自動車メーカーはそれを美しく見せたいと考えていた」とカニ氏は振り返る。「当社はグラフィックに非常に長けており、クルマで使用できるチップを開発した。それが始まりだった。しかし、その後、自動運転車がやって来ることに気づいたのだ」

Drive Sim Replicatorにより、メーカーは自動運転システムの訓練用合成データを生成できるようになる。
Drive Sim Replicatorにより、メーカーは自動運転システムの訓練用合成データを生成できるようになる。    Nvidia

自動運転車が自然に動作するためには大量のAIコンピューティングが必要であり、Nvidiaがこの分野に関心を持っている理由も理解できる。

自動運転車の技術開発には「大変な量のディープラーニング」が必要だとカニ氏は言う。

「また、クラウドでモデルを訓練し、合成データ(シミュレーション)を作成する必要がある。現実世界で起こるすべての事象をテストすることはできないからだ」

特に自動車業界が「ソフトウェア定義型車両」へと移行しつつある今、Nvidiaにとって「絶好の機会」が訪れているとカニ氏は指摘する。ソフトウェア定義型車両とは、デジタルシステムを中心に設計されたクルマであり、車両寿命が尽きるまでアップデートやリフレッシュを繰り返すことができる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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