半導体大手がクルマに突然関心を抱く理由 未来を形作る米Nvidiaの車載コンピューター

公開 : 2025.02.26 18:25

変化の遅い業界

Nvidiaには主に3つの自動車向け製品がある。車載コンピューター(Drive AGX)、AIモデルの訓練に使用できるクラウドコンピューター(DGX)、運転モデルを処理できるシミュレーションコンピューター(Omniverse)である。

「自動車業界は非常に官僚的だから、大変だ」とカニ氏は言う。「多くの人が関与する政治的なインフラストラクチャーがある。政府や労働組合、さまざまな委員会との交渉もある」

BYDは、欧米の競合他社よりもはるかに早くNvidiaの最新技術を導入している。
BYDは、欧米の競合他社よりもはるかに早くNvidiaの最新技術を導入している。    AUTOCAR

「その意思決定のプロセス全体が、IT系スタートアップ企業にとっては新しいものだ。我々はやるべきだと考えたら、実行に移す」

「しかし、自動車会社は『概念実証を始めよう』と言う。そして、何年も協力することになるが、何も進展しない」

カニ氏は、これは「ちょっとしたカルチャーショックだった」と認めているが、自動車業界が徐々に変化している兆しもある。

つい最近まで、自動車メーカーは完成した製品をリリースし、その後の商品改良(マイナーチェンジ)の際に修正を加えていた。

しかし、クルマがコネクテッド化(インターネットに接続)された今、新しいソフトウェアで継続的にアップグレードすることが可能になった。この変化が、コンピューティングに対する自動車メーカーの考え方を変えたとカニ氏は捉えている。

「かつてメーカーが安価なクルマを作る場合、最も安価なチップを使用していた」

「中型車には中価格帯のチップを、高級車には高価格帯のチップを使用する」

「しかし、テスラはすべてのクルマに高性能チップを搭載し、ソフトウェアに重点を置いた。ソフトウェア定義型車両では、最高性能のコンピューターと最も充実したソフトウェアを搭載し、車両寿命が尽きるまで、常にアップグレードを続ける」

これは、米アップルがiPhoneで採用しているアプローチと同じだとカニ氏は指摘する。そして、既存の自動車メーカーがテスラへの対応に遅れをとる一方で、中国の新興企業が「非常に優れた自動運転ソフトウェアを開発」したことで状況は変化しているという。「そこには明らかに脅威がある。そのため、今では彼らは『どうすればより迅速に意思決定ができるか?』と考えているのだ」

多くの自動車メーカーは、中国企業に追いつくために開発サイクルを劇的に短縮しようとしているが、カニ氏は「まだ実現できていない」と語る。

「中国では、2年ごとに新型車が発売される。他のほとんどのメーカーは4年か5年サイクルだ。もし競争相手が2年ごとにアップグレードし、自社が4~5年ごとだとしたら、大差をつけられてしまう」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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