半導体大手がクルマに突然関心を抱く理由 未来を形作る米Nvidiaの車載コンピューター

公開 : 2025.02.26 18:25

メーカーの課題解決

カニ氏は、NvidiaのDrive AGX Orinプラットフォーム(自動運転車の「頭脳」に相当)を欧州の自動車メーカーとして最初に採用したメルセデス・ベンツボルボは、同技術を量産車に導入するまでに数年を要したが、中国は「9か月後にはそれを使用したクルマを製造していた」と指摘している。

ボルボEX90などのOrin搭載の欧州車は最近発売されたばかりだが、Nvidiaは2022年にさらに高性能なDrive AGX Thorプラットフォームを展開しており、すでに中国ではこれを搭載したクルマが走っている。

ボルボEX90はNvidia Orinチップを使用しており、今後発売される新型ES90には2つ搭載される予定だ。
ボルボEX90はNvidia Orinチップを使用しており、今後発売される新型ES90には2つ搭載される予定だ。

「つまり、同時にスタートしたのに、クルマを発売する頃には初日から出遅れているということだ」

「DellやHP、アップルに話をすると、彼らは当社の次のコンピューターがいつ発売されるのかを尋ねてくる。そして、彼らの次の製品(例えばiPhone)の発売はそれに合わせて行われる」

「自動車メーカーは、『次のプラットフォームはいつ利用可能になるのか?』ということと、その日に(利用を始める)準備ができるようにするにはどうすればよいか、ということを考え始めなければならない」

「自動車業界がソフトウェア定義型車両へとシフトするのは容易なことではない。フォルクスワーゲン・グループが直面した課題や、最近のボルボのモデル発売の遅れを例に考えてみてほしい」

その理由の一部は、自動車メーカーが新世代の車両に必要なソフトウェアの種類が変化したことに気づくのが遅かったためであり、現在では機械学習に重点を置いているとカニ氏は述べている。

自動車メーカーがこの変化にどう対応しているかについて意見を求められると、カニ氏は次のように答えた。

「確かに彼らはより多くの情報を入手している。彼らのチームはますます知識が豊富になっている」

「短期的な課題は、ソフトウェアスタックの開発方法の変化だ。かつてフォルクスワーゲン、BMW、メルセデスといったメーカーは、知覚ソフトウェア、融合ソフトウェア、プランニングおよびコントロールを個別に実行していた」

「もはやソフトウェアの開発方法はそんなものではない。アウトソーシングしていた知覚ソフトウェアを導入し、知覚、融合、プランニングを1つのモデルで実行するエンドツーエンドモデルに置き換えるのだ」

専門用語を省いて説明すると、自動車メーカーはこれまで、特定のタスクごとにソフトウェアを個別に開発してきたが、Nvidiaなどの企業が開発した最新の超高性能チップにより、より高度なAIシステムを実行することが可能になった。これはデジタル化が進んだ真の自動運転車に必要なものだ。

「彼らが持っていなかったノウハウをさらに強化しているのだ」とカニ氏は続ける。

「問題は、自動車メーカーは実際に多くのことを学んできたが、彼らが知識を持っているソフトウェアの種類は、もはや将来的に使用したいものではないということだ。そのため、機械学習ができる人材を大量に採用する必要がある」

「誰もが思っていた以上に難しい。しかし、当社は全力で彼らを支援するつもりだ。それが当社の仕事だからだ。『これらの問題の解決をお手伝いします(let us help you with these problems)』」

その点についてカニ氏は、Nvidiaと自動車メーカーの関係はパートナーシップであり、Nvidiaはさまざまなチップやサービスを活用して、自動車メーカーのニーズに合ったソリューションをカスタマイズしていると説明する。

Nvidiaの車載パッケージは強力だが、同社が特に優位性を発揮しているのはクラウドコンピューティングとシミュレーションシステムであるという。

実際、同社の最大の自動車関連パートナーであるテスラは、AI開発にNvidiaのハードウェアをほぼ全面的に採用している(CEOのイーロン・マスク氏は昨年、NvidiaのAIハードウェアに30億~40億ドルを投じる予定であると述べた)。

自動運転の実現には「ほど遠い」

Nvidiaにとって大きなビジネスチャンスとなるのは、自動運転車である。現在道路を走っているレベル2以上のクルマ(特定の状況下で監視下において自律的に走行できる)だけでなく、業界が長年夢見てきたレベル4(完全な自動運転)のクルマである。

現在の半自動運転車は、一般的にかなりコントロールされた環境でのみ走行できる。カニ氏の見解としては、カオス的な都市部で真の自動運転車を実現するには、「はるかに高度なソフトウェアスタックが必要だ。ノイズやカオスが多すぎるため、ソフトウェアの機能を充実させる必要がある」という。

自動運転車の「自然」な動作には、高度なハードウェアが必要だ。
自動運転車の「自然」な動作には、高度なハードウェアが必要だ。    Nvidia

カニ氏によると、この1年で自動運転車の開発は、マルチモーダル・ラージ・ランゲージ・モデルAI(MLLM AI、複数の種類の入力データを処理・理解できるソフトウェア)を使用するまでに進歩したという。いわば、クルマ向けのChat GPTのようなものだ。

また、完全なフェイルセーフのバックアップが求められていることもあって、自動運転機能に必要な大量のセンサーを制御するための、より強力な処理能力も必要となっている。

それゆえ、カニ氏が真の自動運転車には「ほど遠い」と認めるのも不思議ではない。

自動運転車の将来性に魅力を感じないとしても、Nvidiaのシステムには他の利点があることを知っておいてほしい。

現在、多くのクルマに搭載されている、誤作動を起こす厄介な緊急ブレーキシステムや車線逸脱警報システムなどは、新しいテクノロジーによって改善されるはずだ。

また、自然言語による音声コントロールの改善、よりスマートな駐車支援、故障の自己診断と解決策の提案といった機能も実現するだろう。

したがって、自動運転かどうかに関わらず、クルマがますますハイテク化するにつれ、Nvidiaは自動車業界においてますます重要なプレーヤーとして台頭してくると予想される。

「当社にとって、この市場はまだ始まったばかりだ。そして、すでに50億ドル規模の市場となっている」とカニ氏は言う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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