75歳で記録を再更新 ライセットのベントレー8リッター(2) 8.0Lエンジンが放つ熱で暖を取る
公開 : 2025.03.22 17:46
完璧主義者としてオリジナル状態へレストア
その前に彼は、ベントレー・ドライバーズ・クラブの1人でカーコレクターのスタンリー・シアーズ氏と、GW 2926の売却へ同意していた。名車が並ぶガレージへの移動が決まった時の走行距離は、11万8071kmだった。
シアーズもライセットと同じく、完璧主義者。コネクティングロッドの不調や2速のギアが欠けるなど、メカニカルな修理は続いたものの、新車時の状態へ近づけるレストアがスタートした。彼が協力を仰いだのは、父のルイスから事業を継いだドンだった。

直6エンジンは、新しいロッドとピストンでリビルド。公道での走行を前提に、僅かにデチューンされ、オリジナルのトリプルロッド・カムドライブ機構へヘッドは戻された。ブレーキは油圧式になり、ボディは再塗装され、内装も貼り直された。
1962年の初めに作業は終了し、ケンジントン・ガーデンで開かれたBDCコンクール・デレガンスでは、その美しさから優勝。ブライトン・スピードトライアルへ挑んだほか、多くのヒルクライムやスプリント・レースにも積極的に参加している。
スタンリーは、1989年に他界。コレクションの多くが売却される中で、お気に入りだった8リッターは残されるが、後にウィルメント・レーシングチームへ引き取られた。
スタンリーのコレクションへ関心を抱いていたのが、レーシングドライバーでライセットの友人だった、ニール・コーナー氏。シアーズ家とも交友があった。数10年に渡り、ニールはGW 2926の8リッターを、譲って欲しいと申し出ていたという。
スコットランドが似合う8リッターの速さ
2011年に絶好の機会が訪れ、オークションで落札。念願のGW 2926の8リッターを、ニールは我が物にした。航空機用のガソリンを120Lほど注ぎ、エンジンの調子を整えて、最初のドライブに目指したのは400km北のスコットランドだった。
「ステアリングもトランスミッションも、すべてが素晴らしかった。求める条件を理想的に満たしていました。トニー・ファビアンさんへ修理をお願いしたところ、生まれ変わったように快調になったんです」。ステアリングホイールを握る彼が振り返る。

ライセットと同じく、ニールもベントレーで走ることを愛している。8リッターで、何度もスコットランドを巡っているそうだ。並外れた動力性能は、開けた大地の広がるハイランド地方にぴったりだといえるだろう。
北部のエジンバラへのドライブを、ライセットもしばしば楽しんだ。宿泊せずにロンドンへ戻る様子へ、周囲の人は驚いていたという話もある。
その道中、ソフトトップが閉まることはなかった。冷たい雨が降っても、グロスター戦闘機から拝借したフロントガラスの後ろに身をかがめ、8.0Lの直6エンジンが放つ熱で彼は温まったとか。
画像提供:コーナー・ファミリー・アーカイブ
協力:ニール・コーナー氏、フレダ・コーナー氏、マイケル・スクワイア氏、クレア・ヘイ氏
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