自分の自動車博物館を開くには? クルマ好きが故郷でコレクションを大公開 揺るぎない決意と愛情
公開 : 2025.03.02 18:25
英国のとある自動車愛好家が、生まれ故郷で自身のコレクションを展示する自動車博物館を開いた。病を乗り越え、夢を叶えるために必要だったのは、100台以上のクルマと場所、お金、そしてビジョンと揺るぎない決意だ。
病を乗り越え、夢を叶える
自動車博物館を開設する。そのためには、クルマとクルマを置く場所が必要だ。潤沢な資金も必要となる。そして何よりも、夢を叶えるためのビジョンと揺るぎない決意が必要である。
つまり、パット・ホーキンスさんのような人物を目指す必要がある。62歳のホーキンスさんの目には、死と直面しても消えることのない光が宿っている。

6年前、彼は珍しい心臓疾患を患い、病院に緊急搬送された。ギリギリのところで、米シカゴの専門医が手術を引き受けた。
数週間後、体力が回復したホーキンスさんは、故郷の英トーントンに恩返しをすると誓った。そして、あるアイデアを実行に移す。
少年時代から自分の店を持つことを夢見ていたホーキンスさんは、11歳で初めてのクルマを売買し、お金を稼いだ。
15歳になると、ホーキンスさんはブリティッシュ・レイランドのディーラーに整備士見習いとして入社し、夜間は商売を続けた。3年後、ディーラーとしてフルタイムで仕事を始めた。
21歳のとき、彼は最初のガレージを購入した。
しかし、1980年代になると、状況は変化し始めた。誰もがディーラーを志すようになったのだ。そこでホーキンスさんは、ドイツから直接タイヤを輸入し、ライバルたちを下回る値段で販売を始めた。
39歳までに13のタイヤ倉庫を所有するようになったが、その頃、自動車整備会社クイックフィット(Kwik Fit)の創設者であるトム・ファーマー氏から電話がかかってきた。「彼はわたしを買収したいと言ってきました」とホーキンスさんは振り返る。「不動産業に参入しようと考えていたので、100万ポンドで売却することにしたんです」
1990年代後半。不動産の仕入れと同時に、ホーキンスさんは将来クラシックカーとして価値を高めるであろうクルマの購入も始めていた。一般的なクルマや希少性の高いクルマ、完璧な状態で整備記録がしっかりしていて走行距離が少ないクルマである。
2018年になり、ホーキンスさんが病院で療養している間、地元の議会は彼の土地の1区画を強制的に買収するという令状を送りつけてきた。
先見の明を持ち、交渉術に長け、死の淵をさまよったホーキンスさんは、この事態にもしっかりと備えていた。そして、議会が拒否できない申し出をした。
「トーントンに何か恩返しをするための大きなアイデアは、町の中心部に自動車博物館を開くというものでした。そして、ちょうどいい場所を知っていました。1832年から営業している老舗の食料品店、カウンティ・ストアーズです。議会には、わたしの計画を支援してくれるのであれば土地の購入を簡単にすると伝えました。議会は同意してくれました」
そこまでは簡単だった。大変だったのは、店のオーナーから鍵を受け取り、腕利きの職人を雇い、2200平方メートルの老朽化した店舗を改装することだった。博物館がオープンできる状態になるまでに、ホーキンスさんは1年と350万ポンド(約6億6000万円)を費やした。
その間も、彼は個人売買やオークションで展示用のクルマを買い続けていた。「全部で、クルマには250万ポンド(約4億7000万円)ほどかかりました」と言う。
そして2023年11月、ついにカウンティー・クラシックス・モーター・ミュージアム(County Classics Motor Museum)はオープンにこぎつけた。『トップギア』や『グランドツアー』の司会者で知られるリチャード・ハモンド氏がテープカットを行い、最初の訪問者がドアをくぐった。
当時と同じように、現在も100台を超えるクルマが訪問者を出迎える。1950年代から1990年代のクルマが大半で、オートバイも同じくらいある。
ありふれたもの、珍しいもの、美しいもの、魅惑的なものなど、さまざまなマシンが混在しているが、そのほとんどが低走行のワンオーナー車で、すべてオリジナルの状態を保っている。
コレクションの多様性を示す一例として、フォード・カプリ、おそらく国内で最も錆びていないフィアットX1/9、フォード・マスタング・マッハ1、ダットサン280ZX、超レアな日産チェリー・ヨーロッパGTi、ポルシェ911 3.2 SC、1961年製ポルシェ718 RS 61スパイダー、1997年製ACコブラ・スーパーブロワー5L、フォード・エスコートRSターボ・シリーズ1のグループA、ランチア・フルビアS1ラリーカー、フォード・レーシング・プーマ、プジョー205 GTi 1.9、フォルクスワーゲン・ゴルフGTI Mk1、希少なスバルXT 4WDターボ、アウディ・クワトロ・ターボがある。
これらに加えて、ジャガーEタイプ、トライアンフ・ドロマイト、モーリス・マリーナ、ミニ・メトロ、トヨタMR2 Mk1などもある。
「中高年の来館者にとって、これらは青春時代に親しんでいたクルマです。ある90歳の紳士は、オースチン・セブン・スペシャルを見てとても喜んでいました」とホーキンスさん。
現在までに、この博物館には4万5000人が訪れた。そのうちの1人、トーキーからクルマを走らせてやってきたマーティン・リードさんは、「ここにあるクルマの多さに驚きました。とても感動して、年間パスを購入しました」と語る。
ホーキンスさんは、この博物館が地元のトーントンにとって有益なものになると確信している。「人々はわざわざここを訪れたとき、町も見て回っているんです。議会には良い取引になったと思います」
クルマ愛好家にとっても、良い取引になったに違いない。
画像 100台以上のクルマとバイク! 「博物館を作る」夢を叶えた男【カウンティー・クラシックス・モーター・ミュージアムを写真で見る】 全5枚
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