究極のモダン・アウディ S8 クワトロへ試乗 予見的に制御されるエアサス 容姿を裏切る速さ

公開 : 2025.03.29 19:05

落ち着いた容姿を裏切る速さ 唸らされる操縦性

公道へ出れば、野蛮に感じられるほどの速さで、落ち着いた見た目の印象を裏切る。ドライバーがその気になれば、通常は滑らかな8速ATは容赦なくギアを切り替え、0-100km/h加速を3.9秒で処理する。

迅速に反応する四輪駆動システムも、この鋭さへ貢献している。スピード感は、スピーカーから再生される人工音によって、強調されてもいる。

アウディS8 クワトロ・ブラックエディション(英国仕様)
アウディS8 クワトロ・ブラックエディション(英国仕様)

それでいて、コンフォート+モードを選べば、ウットリするほどスムーズでエレガント。優しいアクセルペダルの操作へ、精緻にV8エンジンは反応。軽負荷時には、気筒休止システムが作動し4気筒状態になるが、驚くほど粘り強い。

操縦性で唸らされるのは、サスペンションと後輪操舵システムが叶える、適応力の幅の広さ。シャシーとのコミュニケーション力とレスポンスは、まさに新次元だ。大きなボディを意識させないほど正確に反応し、ドライバーを鼓舞する。

カーブが連続する区間では、回頭性は意欲的でありつつニュートラル。先代のA8では、備わらなかった強みといえる。

リアシートへVIPが乗っている場合は、コンフォート+を選ぶのが正解。速度抑止用のスピードバンプを検出すると、気付かない内に車高は50mm上昇し、サスペンションのストロークを確保。電動アクチュエータにより、ストラットの衝撃は打ち消される。

30km/h程度で通過すれば、殆どバンプの存在は感知できない。21インチのアルミホイールを履いていても。ロードノイズも驚くほど低い。

訴求力の高いオールシーズン・リムジン

カーブでは、ボディは最大3度まで傾斜。より快適に、高速コーナーを駆け抜けられる。
流れの速い郊外の幹線道路でも、高速道路でも、市街地でも、ボディは常にフラット。最近、ポルシェパナメーラが同等の技術を採用したことはご存知だろう。

またダイナミック・モードでは、アクティブ・アンチロールシステムとして機能。設置性を高め、一層シャープな操縦性を引き出してくれる。果たして、その精度や安定性、敏捷性には驚かずにいられない。

アウディS8 クワトロ・ブラックエディション(英国仕様)
アウディS8 クワトロ・ブラックエディション(英国仕様)

従来のS8も間違いなく速かったが、ドライバーの魅力ではライバルに届かずにいた。運転しやすく、アウトバーンでは頼もしくても、ワインディングでは一体感が乏しかった。

しかし現世代のS8は、歴代が築いてきた特長はそのままに、動的な能力が大幅に引き上げられている。高度な技術が相乗し、ドライバーが楽しめる、極めて訴求力の高いオールシーズン・リムジンが完成している。

ただし、ステアリングホイールやペダルは軽く、情報量は希薄。明らかに、アシストされている感覚を伴う。操縦性も自然で一貫性が高いとはいえず、システムの介入を感じさせるものではある。制御は上品だけれど。

車重が2220kgあるS8の燃費は、カタログ値で8.7km/L。マイルド・ハイブリッドと気筒休止システムを備えるが、ランニングコストは小さくない。英国価格は、試乗したブラックエディションで11万3740ポンド(約2218万円)となる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    グレッグ・ケーブル

    Greg Kable

    英国編集部ライター
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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