注文は3台のみ フェラーリ250 GT SWB エアロダイナミコ(1) スムーズなファストバック

公開 : 2025.04.12 17:45  更新 : 2025.04.12 18:32

スムーズなファストバック・ボディの「エアロダイナミコ」 ベースは250 GT ランチア家と親しかった初代オーナー クリーミーに6000rpmへ吹ける3.0L V12 英編集部が貴重な1台をご紹介

空気抵抗の良さそうなファストバック・ボディ

フロントからリアを結ぶように、弧を描くファストバック・ボディ。スムーズさを打ち消すのは、唯一、丸いヘッドライトだけだ。フェンダーの後方には、ディスクブレーキの熱を逃がす大きなエアベント。いかにも、空気抵抗の良さそうなフォルムだと思う。

ただし、フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコは、風洞実験を恐らく受けていない。時代は、まだジェット戦闘機の開発競争が本格化し始めた辺り。ピニンファリーナ社も、空気力学を意識し始めたような頃だった。

フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコ(1962年式/欧州仕様)
フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコ(1962年式/欧州仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

高速道路の敷設とともに、速さを感じさせる特別なスタイリングを世界の富裕層は欲求していた。北米を中心に。イタリア・トリノとミラノのデザイナーは、流線型の美しいスケッチでそれに応えた。

4.1Lや4.5LのV型12気筒を積んだフェラーリ340や375の「アメリカ」シリーズに続き、テールフィンの付いた410 スーパーファストが1956年に登場。北米の販売権を握っていた、もとレーサーのルイジ・キネッティ氏によって、恵まれた顧客へ届けられた。

1959年に、フェラーリは400 スーパーアメリカをリリース。それをベースに、ピニンファリーナ社のデザインチーフだったアルド・ブロヴァローネ氏は、スーパーファストIIをデザインする。サメのように見えていた、フェラーリの方向性を修正した。

250 GTがベースのクーペ・エアロダイナミコ

チシタリア社から1952年に移籍した若き彼は、1953年にアルファ・ロメオ6C-3000 CM スーパーフローのスタイリングへ参画。すぐに頭角を現し、ピニンファリーナ社のデザイン責任者へ就任した。

1955年には、フィアット社を率いるジャンニ・アニェッリ氏の要望で、巨大なガラス製キャノピーを載せたフェラーリ375 アメリカを担当。スーパーファストIIでは、航空機の主翼からアイデアを得た、シンプルな造形を提案している。

フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコ(1962年式/欧州仕様)
フェラーリ250 GT SWB クーペ・エアロダイナミコ(1962年式/欧州仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

1962年のスーパーファストIIIでは、リトラクタブル・ヘッドライトと細身のピラーで、軽快さが表現された。同年には、スーパーファストIVもデザイン。丸目4灯のヘッドライトは、1963年の330 GTを予見する特徴といえた。

スーパーファスト・シリーズは、顧客からの支持が高かった。1959年から1964年にかけて、フェラーリは47台の400 スーパーアメリカを生産しているが、ピニンファリーナ社が「クーペ・エアロダイナミコ」と呼んだ特別なボディは32台へ与えられている。

その後、1964年に500 スーパーファストが登場。スーパーアメリカという呼び名は、用いられなくなっている。

これと前後し、1959年のスイス・ジュネーブ・モーターショーで発表されたのが、3.0L V型12気筒を積む250 GTをベースにした、クーペ・エアロダイナミコ。欧州の富裕層向けに、印象的なボディへ、税金が少なく済むパワートレインが組み合わされた。

しかし、実際にショートホイールベースでオーダーされたのは3台のみ。量産ボディとはいえず、高価な価格設定が排他性を高めたと考えられる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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