【現役デザイナーの眼:BMW X3】リフレクションで魅せるデザインで、新たなステージへ

公開 : 2025.03.19 11:45

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が、BMW X3を例に、BMWのデザインを読み解きます。

個性が明快になったエクステリア・デザイン

BMWのデザインというと、私がカーデザイナーになりたての頃はお手本であり、ベンチマークでした。当時、賛否両論あったクリス・バングル時代でしたが、それまでのコンサバティブなデザインからの変化は、他メーカーのカーデザイナーにも影響があるものでした。

ある意味カーデザインの先端だったBMWですが、ここ最近はプロポーション、ディテール共に、どうも『洗練さ』が足りないと感じていました。

顔の厚みが増し、ボクシーな印象になった新型BMW X3。従来のドイツ車には無かった、ドア面のリフレクションの揺れにも注目。
顔の厚みが増し、ボクシーな印象になった新型BMW X3。従来のドイツ車には無かった、ドア面のリフレクションの揺れにも注目。    BMW

しかし、今回解説する新型X3で、また新たなステージになった印象があります。

皆さんは、旧型X3がどのようなデザインだったかを明確に思い出せるでしょうか? 

均整の取れたプロポーションやいかにもBMW的な比率の顔まわりなど、多くの方に『ハンサム』に映るデザインだった反面、とても従来的なデザインなので、歴代X3の中でもかなり地味な印象を持っていました。

しかし新型X3では、まずサイドシルエットの印象が個性的になりました。顔の厚さが増し、さらにリアゲートが立ち気味になったおかげで、旧型X3よりもノーズやルーフの長さが強調され、ボクシーとも言えるデザインになりました。

サイドシルエットだけで言うとハイパフォーマンスSUVである『XM』の印象に近づいたと思うのですが、荒々しいXMに対して、X3は洗練されていると思います。

従来のBMWとは異なる魅せ方

さらに面構成でもチャレンジをしています。

従来のBMWは、他のドイツ製ブランドと同様に一本の断面をドラッグしたような、動きの少ない印象のドア面だったのですが、この車は大胆な立体構成で、キャラクターラインでは無く、マツダのように『リフレクション』で魅せようとしています。マツダに比べて明快ではないのですが、従来のBMWとは明らかに異なるデザインです。

BMW iX。こちらもX3同様、面のボリュームで魅せるデザインだが、X3とは『リフレクション』の使い方が異なる。
BMW iX。こちらもX3同様、面のボリュームで魅せるデザインだが、X3とは『リフレクション』の使い方が異なる。    BMW

面のボリュームで魅せるデザインは『iX』も同様ですが、X3はリフレクションの変化を狙っている造形なので、より高度になった印象があります。

顔まわりの印象は、見方によってはファニーにも見えるバランスやグラフィックになっています。もちろん迫力もあるのですが、どこかフレンドリーな印象すらあります。この辺りは好みの分かれるところですが、威嚇するようなデザインが多い最近の顔まわりの中で、意義のあるデザインだと感じます。

トレンドから脱し、新しさを追求するインテリア・デザイン

X3は、インテリアでもチャレンジをしています。

最近のインテリア・デザインのトレンドといえば、横基調かつ薄いインパネです。従来的な価値観では、インパネの厚さや充実さでクルマの車格を表現していました。しかし現代は、横方向の広さを強調しつつ、空間に溶け込むようにデザインして、圧迫感を無くし、リラックスできるように仕立てているデザインが主流です。

造形や線を左右に通さなかったことで、縦のボリュームを感じさせるインテリア。光る華飾は、好みで派手な色から落ち着いた色まで選択出来る。
造形や線を左右に通さなかったことで、縦のボリュームを感じさせるインテリア。光る華飾は、好みで派手な色から落ち着いた色まで選択出来る。    BMW

それは時代の要望なのですが、その結果、どのメーカーも横基調で薄型のインパネを採用するようになり、デザインの新規性においてはやや停滞していた印象もあります。

それが新型X3ではトレンドに反し、インパネの厚みがしっかり感じられる造形になっています。

大きな塊をディスプレイ部でカットした基本造形は非常に明快で、その結果、助手席前は非常にボリューム感があります。これがある種の安心感のある空間になっていて、乗ると意外と居心地が良いんですよ。

しかも、ドアトリムにあるV字型の『光る華飾』により、横方向の広がりも感じさせています。この辺りは非常に上手いデザインだと感じました。

この光る華飾はアクリルの中にLEDを仕込んでいて、最近のBMWでよく採用されています。ただ7シリーズや5シリーズでは、トレンドの横基調デザインの中にこの光る華飾があるので、どこか派手で装飾が過ぎた印象を持っていました。

ですが、このX3になると、そもそも従来と異なった特徴的なデザインなので、この華飾もある種の説得力が感じられます。この辺りも好みがあると思いますが、従来のトレンドを変えてやろうというBMWデザインの『攻めの姿勢』が見えることが良いと感じました。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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